2010年01月29日

白川 浩道
中国経済はハードランディングするのか?


 2010年がスタートして早くも1ヶ月が過ぎたが、国際金融市場は神経質な展開をみせている。 すなわち、世界景気回復期待が徐々に強まっているにもかかわらず、国際商品市況や原油相場は下落している。 代表的な資源国通貨である豪ドルも、1月中旬にかけて一旦上昇したものの、その後は下落した。 新興市場国の株式市場も軟調である。上海総合指数は年初来で9%程度の下げを演じている。 インド、ブラジル、ロシアの株価も軒並み安くなっている。 先進国の株式市場も、昨年10-12月期の企業決算が回復傾向を示しているのを無視する形で冴えない動きとなっている。

 こうした市場の動きをもたらしているのは、中国景気減速懸念である。 今や中国のGDP規模は日本と並んでおり、日本が追い越されるのは時間の問題である。 しかも、年率10%という高成長を維持しているため、世界成長の3分の1強は中国経済単独で稼ぎ出している計算である。 乗数効果を勘案すれば、中国経済の世界成長寄与率は50%に達するかもしれない。 その中国景気が減速するとなれば、大事なのである。

 中国景気に対する減速懸念は金融引き締め政策に端を発している。 中国当局は不動産市場の過熱に対処すべく、融資規制に踏み切った。 その結果、中国経済が急激に腰折れるのではないか、との見方が強まっている。

 中国では銀行貸出が年率30%という驚異的なスピードで拡大している。 日本円にして年間で100〜150兆円ものマネーが創造されている計算である。 日本における銀行貸出の伸びは年間で高々10兆円といったところであり、まさにケタ違いの信用創造が行われている。 10%という高い経済成長を前提としても銀行貸出の伸びは15%程度の伸びで十分なはずである。 中国は極端な過剰流動性状態にあり、これがバブルをもたらさないはずはない。 当局が金融引き締めに踏み込むのは当然であり、遅きに失した感すらある 。

 それでは、中国経済はハードランディングしてしまうのであろうか?
 答えはノーである。以下に考え方を示しておこう。

  1. 銀行の新規融資を禁止するなど直接的な規制が導入され始めているが、こうした措置は長続きしない。景気拡大で所得が増加しているため、企業や個人の手元資金は拡大を続けている。融資を禁止した場合、銀行は運用先に困るため、預金受け入れを拒絶するであろうが、その場合、企業や個人のマネーは株式投資や不動産投資に直接向かうだろう。結局、前近代的な方法で銀行以外の資金の動きも止めない限り、バブル抑制は不可能である。しかし、広範な投資規制を企業や個人がすんなり受け入れる可能性は低い。
  1. また、国内銀行から資金を得られない企業は海外から資金を得ようとするだろう。その結果、中国国内に海外から資金が流入し、人民元相場には上昇圧力がかかる。中国は依然として固定相場制に近い為替制度を採用しており、人民元相場を安定的に維持しようとすれば、為替介入(人民元売り介入)を行わざるを得ない。その結果、国内の流動性はもっと増えてしまう。矛盾である。
  1. つまるところ、中国は金利水準を引き上げて、資金需要全般のスローダウンを企図するしかない。その場合、特に短期的には投機資金が流入してくるリスクがある。これを資本流入規制によってコントロールすることもできないではないが、やはり王道は、人民元相場を徐々に切り上げて投機熱を冷やすことである。実際、当局は人民元相場切り上げを選択する可能性が高い。人民元相場の切り上げによって中国の対外購買力が高まるというメリットがあるからである。中国は、天然資源や先進国の技術を欲しており、潜在的な海外投資意欲はかなり高い。海外投資する上で人民元高は有利なのである。
  1. このように、中国当局が銀行融資規制を実施できるのはごく短期間とみられ、春までには、貸出・預金金利の引き上げと人民元相場の切り上げに踏み切るだろう。利上げと人民元相場切り上げによって内需、外需ともに減速し、景気の過熱感が徐々に収まるはずである。なお、当局は、利上げと人民元切り上げのペースをコントロールしさえすれば、ハードランディングを回避できるはずだ。

 銀行の新規融資を禁止するといったニュースは世界の金融市場を震撼させた。 確かに不動産バブル懸念は大きい。 しかし、上記でみたように、中国には景気を軟着陸させる術(すべ)があるのだ。 その術があるのにもかかわらず、ハードランディング懸念を放置する姿勢からは、「今や世界経済は中国を中心に回っている」という力の誇示にも似たものを感じとることができる。

 

以 上
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