2010年03月01日

白川 浩道
ブル・マーケットの終焉


 2009年の株式市場は、典型的なブル・マーケット(上昇相場)であった。 新興国市場の株価は軒並み5割超の上昇になり、BRICsは平均で9割も上がった。 暴騰である。先進国の株価も2〜3割の上昇を達成した。 原油相場も8割程度上昇し、国際商品市況も2割強上がった。

 しかし、ブル・マーケットは既に終焉したと考えられる。 2010年の世界株価がもう一段の上昇を演じるのは困難であろう。 2010年初来2ヶ月間の相場の動きをみると、世界的に10%未満の小幅の下落となっている。 BRICsは平均で5%弱下落した。

 なぜブル・マーケットは続かないのか。 各国の当局が危機対応モードにあった金融・財政政策を平時モードに戻そうしている (これを専門家の間では正常化と呼んでいる)ため、景気のさらなる回復を見込みにくい、というのが最も一般的な解釈であろう。 中央銀行による膨大なの資金供給と財政当局による積極的な景気刺激策(公共投資や減税)が、徐々にであっても修正されるのであれば、景気の先行き期待は後退するということである。

 市場が、政府や中央銀行によるサポートがなくなることを恐れているのは、世界経済が拡大する次のテーマが見当たらないからである。

 代替エネルギーへのシフトが新たな景気回復局面をもたらすという見方も根強いが、これは2000年代初めにかけて起こったIT化進展のような技術革新とは違う。 代替エネルギーにエネルギー源がシフトすることによって、企業の生産設備や労働者の生産性が上昇するわけではない。 要するに、世界経済の生産能力が持続的に高まるような話ではなく、ある狭い分野で設備投資が一時的に増えるだけのことである。 代替エネルギー投資が増えること自体は世界成長率にプラスであるが、その分、他のエネルギー投資が減ることになる。 基本はゼロ・サムである。

 新興市場国の投資活動が世界経済を牽引するというストーリーはどうか。 これは代替エネルギー論よりは筋が良さそうにもみえる。 新興市場国経済には引き続き根強い社会インフラ需要がある。 鉄道、道路、治水、発電、都市部の近代化などである。 経済の近代化は国内政治情勢を安定化させるツールでもあり、新興市場国政府にとって重要な政策課題である。 財政拡張策は先進国では一時的な景気刺激の側面が強いが、新興市場国ではより長期的な観点に立った社会政策の意味を持っている。 あえて言うまでもないが、こうした投資ブームを謳歌している代表的な国は中国である。

 中国を中心としたアジアの国内投資の拡大は世界成長の新たなテーマになり得るのか。 残念ながら、答えはノーである。

 アジア新興市場国のGDPに占める投資(民間プラス政府の投資)の比率は40%強である。 彼らの世界経済におけるシェアは15%程度であるから、世界経済におけるアジア新興市場国の投資活動のウェイトは6%程度に過ぎない。 アジアで投資が2割伸びても世界GDPは1%強しか増えない。 しかも、40%強というアジア経済における投資比率は既にかなり高く、土地バブルなどの副作用を起こさずに上昇させられる余地は限られている。

 日米欧のオールド・エコノミー(従来の経済)が世界経済を引っ張る姿など描きようがない。 先進国が抱える共通の問題点としては、
[1]高齢化によって政府支出が趨勢的に増加しており、政府が財政政策を前向きに使うことができない、
[2]不動産市場の低迷が深刻であり、資産デフレのリスクが大きい、
[3]金融危機は回避されたが、規制・監督を強化する動きが強く、金融機関の活力が失われつつある、
などを指摘できる。

 世界経済は金融・信用恐慌の広範な発生を回避し、壊滅的な状況に陥ることをなんとか逃れた。 しかし、持続的経済発展のシナリオは見えてこない。 今後の世界の株式市場は、政策正常化のニュースに一喜一憂しながら、当面、冴えない展開を続けるものと予想する。

 

以 上
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