2010年05月06日

白川 浩道
世界景気の2大リスク


 世界景気は未曾有の金融・経済危機をなんとか乗り越え、昨年の半ば頃から新たな回復局面に入っている。 基本的には、広範囲かつ積極的な危機対応策(金融緩和・財政拡張、金融システム安定化措置)を受けて金融市場のリスク許容度が改善し、世界的に株価が上昇したことで個人や企業のマインドが回復したためであるが、アジア諸国のように財政拡張政策が実需を持ち上げた地域もある。 世界景気の長期低迷を予想した企業はリーマン・ショック後、生産活動を大きく縮小し、在庫調整に躍起になった。 しかし、彼らは昨年半ば頃から需要の底打ちに合わせて生産活動を徐々に正常化させ、さらに足元では世界景気の拡大が当面継続するかもしれないという期待の下、在庫積み増しを開始した。 このため、世界的な生産活動は当面は“上向き”を維持しそうである。

 確かに、世界的なマネーのジャブ・ジャブ状態が崩れるリスクはまだ小さい。 米国では、雇用や賃金の回復力が弱く、実質ゼロ金利政策を止める理由に乏しい。 日本では、デフレ解消の目処が立たず、金融政策の方向性はどちらかといえば追加緩和である。 欧州は、ギリシア問題が混迷の度合いを深めており、金融政策正常化を模索するのは危険過ぎる。 日米欧の三極が金融緩和を長期化する可能性が高い以上、世界流動性の急激な縮小は展望されない。

 しかし、世界経済が腰折れるリスクには常に配慮が必要である。 マネーのジャブ・ジャブ状態が継続すれば、世界経済もある程度のショックには耐えられるはずである。 しかし、景気後退ショックが同時に2つ発生すれば、景気鈍化は避けられない。 そして、世界景気にとっての2大リスク要因と言えば、中国内需のハード・ランディングとユーロ圏景気の失速である。 ともに2010年が要注意である。

 中国内需がハード・ランディングするシナリオはこうだ。

 まず、過去数ヶ月に及ぶ金融引き締めにもかかわらず、不動産市場の過熱感に変化がみられない。 銀行貸出も減速してきてはいるが、十分に鈍化したとは言い難い。 このため、当局は、不動産取引抑制策をさらに強化せざるを得ない。 不動産購入者向けの増税や保有税の強化、不正な融資を続けている銀行に対する罰則強化などである。 バブルが発生している可能性が高いとすれば、それが破裂する可能性も同じように高い。 所得格差の拡大を嫌う当局がバブル潰しに真剣になったとき、バブルは実際に弾けるであろう。 この結果、日本型の担保金融を行ってきた中国の銀行には大きなストレスがかかる。 金融不安のリスクが高まれば、銀行への公的資金注入が実行され、金融システム危機は回避されるとみられる。 しかし、銀行部門の弱体化は避けられず、中国の成長率は大きく低下する。

 ユーロ圏景気の失速も世界経済に深刻なダメージを与えかねない。 ユーロ圏経済の規模は13兆ドル程度で米国経済よりも幾分小ぶりであるが、依然、中国経済の2倍以上ある。 ユーロ圏の内需がマイナス成長を継続すれば、世界景気に対する下押し圧力はそれなりのものになる可能性がある。 また、ユーロ圏経済が失速し、通貨ユーロの下落が続いた場合、世界的な信用収縮をもたらすかもしれない。 通貨分散を図った米国、アジア、中東の金融機関のバランスシートがユーロ安によって痛むからである。

 ユーロ圏景気失速の起点になるのは、やはり、ギリシア問題であろう。EUとIMFは、向こう3年間・総額1,100億ユーロ(13.5兆円)というギリシア支援パッケージに合意したが、支援の前提となる同国の財政再建策が計画どおり実行に移される可能性は極めて低い。 5年間で財政赤字をGDP比で10%以上削減するという再建計画を遂行するためには、公務員人件費や公的年金の削減、増税だけではなく、脱税や官僚による汚職を根絶する必要がある。 ギリシア社会の価値観が根底から揺さぶられる大変革であり、政情不安は免れないだろう。 結局、支援パッケージは絵に描いた餅に終わり、ギリシアは財政破綻する可能性が十分にある。 そして、ギリシアの財政破綻は隣国をもある程度汚染するだろう。

 ユーロ圏の政府が事態の収拾にてこずれば、資本逃避が発生すると読む必要がある。 富裕層マネーに限らず、貯蓄の流出である。 この結果、ユーロ圏では金利が高止まりし、銀行の信用仲介機能も低下することになる。 これがユーロ圏景気の長期低迷をもたらすのである。

 2010年の世界景気には十分に慎重になる必要がある。 投資家も安全ベルトを締め直すに越したことはない。

 

以 上
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