2010年06月29日

白川 浩道
新政権を不安定化させる3つのリスク要因


 新政権が発足して1ヶ月弱が経過した。 首相はカナダで開催されたG8、G20の両会合を無難にこなし、政権運営も徐々に軌道に乗りつつあるようにみえる。 政権発足後、早々に消費税率の10%への引き上げを打ち出したことで内閣支持率は幾分低下したが、政党支持率では民主党が自民党を依然として大きく上回っており、今のところ、参院選に向けた戦いでも優位に立っている。

 しかし、新政権が長期安定政権になる保証はまだない。 気が早いかもしれないが、新政権を不安定化させる3つのリスク要因を指摘しておきたい。 政治が再び不安定化すれば、日本株が再度上昇する道は絶たれることになる。

 リスク要因1:外交の混乱継続
 鳩山政権が退陣に追い込まれた主たる背景としては、政治とカネの問題の再発による国民の政治不信の増大、普天間基地移設問題の混乱、の2点を指摘できようが、新政権のプライオリティは、まずは政治不信の解消に向けられるであろう。 クリーンなイメージを打ち出すことが最も重要であるとの発想である。 ある民主党の幹部が「今後、財政再建に当たって国民に様々な負担をお願いすることになる。 その際、国民に政治とカネの問題に関する不信感が残っていることは許されない」と発言していたが、この言葉が全てを物語っているといえよう。

 逆に言えば、米軍基地移設問題の解決や、より広い視点に立った日米関係の改善という課題は後回しにされる可能性がある。 鳩山政権が米軍基地問題を国内問題化させてしまったことは残念であるが、新政権が同問題を国際安全保障(日米安全保障ではなく)の重要課題との認識に立って能動的に解決できるかどうか、という点は非常に重要だ。 仮に、国内問題としての扱いを続ければ、日本の国際的な立場が一段と悪化する可能性もあり、政権が不安定化するリスクが出てくる。気になるのは、G8・G20会合の開催に合わせて行われた日米首脳会談の席上で米軍基地移設問題に関する踏み込んだ話し合いがなかったとみられる点である。

 リスク要因2:消費税増税への反発
 景気後退を背景とした税収の急激な落ち込みによって財政赤字が増加したのは事実であるが、鳩山政権下で一般政府支出が大きく増加したわけではない (2010年度の国の一般歳出は2009年度当初予算比で1.7兆円増)。 新型子ども手当ての導入、公立高校授業料の無償化、農家向け所得補償などの所得補填策がクローズアップされてはいるが、鳩山政権が政府規模に関して明確な立場を表明したことはない。

 政府の最適規模をどのように考えるのか、という問に対する明確な答えが示されて来なかったのは、税に関する議論を封じ込めて来たからである。 「政権取得後向こう4年間は消費税増税を行わない」という昨年の衆院選時のコミットメント(公約)を守り、歳入規模にタガをはめたため、政府規模を大きくするとの議論はできなかった。 一方で、社会保障支出を削減すると言わない限り、政府規模を小さくするとの主張もあり得なかったのだ。

 さて、新政権はどうか。最大のポイントは、最近の世論の流れに押し出される格好で税の議論に関する封印を解いた、ということである。 やや慎重な言い回しを続けてはいるが、2013年度までの消費税増税を排除しない(昨年の衆院選時には消費税増税は最短で2014年度とされていた)というスタンスを明確に示した。

 こうした税に関する姿勢の変化については、「より大きな政府を志向する」という新政権の意思表示であると受け止めるべきであろう。 一部には、消費税増税を財政赤字削減措置と見る向きもあるが、そうした解釈は甘い。 消費税増税は、増加を続ける社会保障負担のファイナンスが目的であり、社会的安定性を担保する手段に過ぎない。

 国民は「大きな政府」路線を支持するのであろうか。 高齢化の下で財政を維持するためには消費税増税しかない、と半ば諦めている国民がそれなりにいるのは事実であろう。 しかし、消費税増税が本当に支持されるのか、依然として極めて不透明である。

 第1に、消費税増税を財政赤字削減措置と受け止めていた財政健全派の国民は失望するであろう。
第2に、ライフ・サイクルの面から賃金が上昇するのは40代後半よりも若い世代であり、40代後半よりも高齢であれば、賃金は趨勢的に下落する。 毎年趨勢的に賃金が下がる40代後半以降の国民にとって消費税増税を受け入れることは容易ではない。
第3に、所得との関係からみた場合、消費税は逆累進課税、高所得者優遇税制であり、相対的には社会的弱者や低所得者に不利な税制である。

 このように考えると、消費税増税を支持するのは、基本的には、副産物としての法人税減税を期待する大企業と高所得者であろう。 残念ながら、民主党の支持基盤と消費税増税支持層の間には大きなギャップがある。 新政権による消費税早期増税論には政情不安定化のリスクが内包されていると考えるべきであろう。

 リスク要因3:内部分裂
 最後のリスク要因は内部分裂である。

 やや荒っぽい言い方をすれば、民主党内は、「構造改革と対米外交」を重視するグループと「社会安定と多方面外交」を重視するグループ、にほぼ2分されているようにみえる。 新政権がいずれのグループともうまく渡り合えている間は、少なくとも表面的には安定が維持されよう。 言い換えれば、最大公約数的な視点で政権運営を行えている間は、政権の安定性がなんとか維持されるとみられる。 しかし、双方から圧力を受けるうちに、ついには最大公約数的な政権運営を放棄し、いずれか一方のグループに近づく可能性がある。 そうなれば、政権の安定性を維持することはかなり困難になる。

 参院選に向けたマニフェストの内容が昨年の衆院選時のそれとかなり異なるものになったこと (新型子ども手当ての満額支給断念、高速道路無料化断念、農家所得補償の縮減など)を受けて、衆参議員の関係は既にぎくしゃくし始めている。 参院選後の政権がどのようなものになるのか(民主単独政権なのか、あるいは何らかの連立政権なのか)、不透明感が強いが、郵政民営化見直し法案の審議やり直し、あるいは廃案などをきっかけに内部分裂が一気に表面化するリスクも否定できない。

 

以 上
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next