2010年10月29日

白川 浩道
崩壊の道を歩む新興国バブル


 サブプライム・バブル発生と崩壊を経験した米国民は、“金融緩和とジャブジャブの資金供給に依存した景気拡大に持続性はない”ということを身をもって学んだ。 しかも、サブプライム・バブル崩壊後には、非常に深い景気の落ち込みと急激な失業増加という、近年にない大きな苦痛を味わった。 米国の完全失業率はいまだに10%弱という異常な高さを続けている。

 経済成長パターンに対する不信感と強い苦痛のトラウマ。 これが米国の個人や企業のマインドを蝕んでいる。 それにもかかわらず、米国政府は再び金融緩和のみによる景気回復を目指している。 人心の把握ができていないのか、他に策がないのか。いずれにせよ、懲りない面々である。

 米国の安直な金融緩和(量的緩和)志向は、日本を含めた世界経済の大きな脅威である。 米国の金融緩和は内需を回復させることに失敗するため、結局のところ、いわゆるドル・キャリー・トレードなどを巻き込んだ米国からの資本流出の拡大ともう一段のドル安圧力をもたらすことになる。 その帰結は、資本流入規制・信用引き締め強化による新興市場国経済のハード・ランディング(景気の急激な悪化)と世界経済の再失速であろう。

 ドル流動性の流入が拡大するアジアの新興市場国や資源国では、理論的には、
[1]為替相場の大幅な切り上げと利上げ、
[2]外人による不動産・株式投資制限、 の二者択一を迫られることになる。 為替相場を大幅に切り上げれば、海外からみてアジアの割安感がなくなり、投資妙味が消える。 [1]はそれを狙ったものだ。

 しかし、[1]を選択する国は、当面、殆どないと予想される。 国際競争力の急激な悪化を懸念する中国が人民元をなかなか切り上げないからである。 中国が人民元を切り上げないのに自国通貨を切り上げれば損をすることは目に見えている。

 なぜ、中国は人民元をなかなか切り上げないのか。 答えは簡単である。 労働生産性の伸びが低く、賃金上昇と為替切り上げのダブル・パンチに耐えられないからである。 リーマン・ショック後、中国は積極的な公共投資で景気拡大を図ってきたが、過剰投資のツケが不良債権拡大という形で顕在化しつつある。 公共投資を絞る必要が出てきた以上、輸出を落とすわけにはいかないのである。

 [1]が選択されないのであれば、[2]しかない。 米国が今後どんどん刷ってくるドルの流入に対抗するためには、早い話、市場を閉鎖するしかない。 外国人による株や不動産への投資を制限するということである。

 しかし、こうした規制強化を長くは維持できまい。 近代化の流れに逆行し、国際的な批判も招くからだ。 そうなると、アジア諸国にできることはただ1つ。 自らの手で国内の資産バブルを潰すことであり、それによって先進国の金融機関に痛手を与えることだ。 そうすれば、暴力的な先進国マネーもさすがにひるむはずだからである。 アジア諸国は国内のリスク・マネーを一気に締め上げるために、国民や国内企業の株・不動産取引に大型増税を導入することになろう。

 実は、中国などにとって国内資産バブル潰しは大いに意義のあることなのだ。 資産格差、所得格差を是正できるからである。 米国の無謀な金融緩和の下で新興国バブルは崩壊の道を歩んでいる。警戒が必要である。

 

以 上
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