2011年04月15日

白川 浩道
大震災後の日本


 東日本大震災が発生して1ヶ月余りが経過した。 大地震と巨大津波の爪あとは大きく、日本経済の長期低迷が懸念される。 今回の震災で日本はあまりに多くを失ったが、長期的な視点に立った場合、信頼と自信の2つを失ったことは本当に不幸であった。

 日本が失った信頼とは、政府、大企業、安全に対する信頼である。 日本が失った自信とは日本の豊かさと技術に関する自信である。 信頼と自信は、それがひとたび失われると回復することは容易ではない。 失われた人的資本を復元することはできず、悲しみにたえないが、被災した生産設備や建物、道路をそれなりに復元することは可能である。 しかし、人心を復元することはほぼ不可能に近い。 東日本大震災発生による精神的な痛手を負っていない世代が社会の過半を占めるようになるまで−それは恐らく40、50年後のこととみられるが−傷ついた日本人の人心は回復しまい。

 信頼の喪失は日本経済に打撃を与える。

 第1に、政府は財政再建に頓挫するであろう。 一部には、経済復興を理由に消費税を増税し、その結果、財政健全化を進められる、と考えている向きもあるようであるが、そうした考え方には全く賛同できない。 そもそも政府が信頼に足る復興プロジェクトと増税案をセットで示せる可能性は低いが、社会保障財源の確保を理由に増税することもきわめて困難であろう。 年金や医療の制度改革を避けて不透明な増税に踏み切ることを、信頼を失った国民が納得する可能性は低い。

 日本の財政が破綻するリスクは今回の震災を経て上昇したと判断される。

 第2に、風評被害が長期間継続する可能性が高い。 原発事故による放射能汚染問題に関しては海外の過剰反応を懸念する声があるが、日本国民による忌避のリスクもかなり大きいのではないか。 日本人は総健康オタクと呼ばれ、日本は先進国きっての長寿を謳歌してきた。 健康、安全に最もうるさい国民であると考えるのが自然であろう。 内需、個人消費の長期低迷リスクは大きい。

 自信の喪失がもたらすコストも深刻である。

 福島原発の事故は、日本がもはや豊かではなく、技術力にも衰えがみえていることを確認した。 官僚機構や政府の対応を批判する声もあるが、こうした指摘は必ずしも的を射ていない。 本質的な問題は、バブル崩壊後の経済低成長が設備の老朽化と技術(今回の場合、原発事故処理技術)の陳腐化を招いてきた、ということに他ならない。

 制度やガバナンス(統治機構)にも問題はあるが、より大きな問題は、成長低迷、税収低迷である。 要するに日本は貧乏になったのであって、電気料金は上げられず、政府も資金を投入できず、このため、経済活動の根幹たる電力事業の設備の質の悪化を放置し、また、カネのかかる技術革新を怠ってきたのである。 リスク管理ができていなかったのではなく、それに資金を投入するだけの余裕がなかったと考えるべきであろう。

 道路、港湾、空港などの公的社会インフラの老朽化は、発展が著しいアジア新興市場諸国とのコントラストの象徴である。 インフラの老朽化が経済成長にマイナスの影響を与えるのは、古くて使い勝手が悪いという理由だけではない。 老朽化は地震などの震災が経済に与えるダメージを大きくするリスクがある。 そうしたリスクを嫌えば、海外企業は日本企業とのビジネスを減らすだけである。 人口が高齢化がしても設備や社会インフラが先進的であれば、まだ救われる。 しかし、設備や社会インフラも後進的であれば、救いようがない。

 今からでも遅くない、政府と企業は信頼と自信を取り戻すべく、最大限の努力をすべきだ、との議論も出てこよう。 しかし、足元の経済危機は精神論で乗り切るようなものではない。 実際に大きな資金を投入し、社会インフラ(都市部を中心にした空港、道路、港湾)のリニューアル、最新汚染除去技術や代替エネルギー技術の導入などを行うべきなのである。

 今、日本は広い意味での公共投資を長くサボってきたツケを払わされている。 そうした理解の下で、積極的に“実弾のマネー”を投入しなくてはならない。

 しかし、政府にそうした認識はなく、増税によって財政赤字を減らすことに躍起になっている。 見通しはきわめて暗い。

 

以 上
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