2000年12月05日

白川 浩道
ゼロ金利回帰を気軽に論ずるべきではない

 10年国債利回りは1.6%割れを経験した。株価も低位横這いを続け、為替相場も110円を超える円安となっている。政治家の間では、予想していたよりも早く「ゼロ金利解除失敗論」が台頭し、日銀への圧力が高まっている。投資家、特に海外投資家は、これとほぼタイミングを同じくして、「日本経済失速、金融システム不安再燃、ゼロ金利政策回帰」を視野に入れ始めたようにうかがわれる。

 こうした市場の動きをどう評価すれば良いであろうか。結論から言えば、市場は、日本経済の先行きにやや悲観的に過ぎ、また、ゼロ金利回帰を気軽に論じすぎている面があると言えよう。日本経済は、スローダウンする可能性こそ高いが、「経済破綻(disaster)」を招くまでには至らない。経済破綻は生じないと考える以上、「ゼロ金利回帰はない」とみるのが筋であろう。

 ゼロ金利回帰を単なる循環的な金利政策の一貫と考える投資家がいるように見受けられるが、それは明らかに誤りである。0.25%と0%の差は、5.25%と5%の差とは全く異なるものである。日銀はこの8月、何ヶ月も検討の末にゼロ金利解除を決めた。無論、最終的な決定は総裁のイニシアティブで行われた面が強いが、当時2人を除く委員全員が賛成し、また、スタッフもゼロ金利解除の必要性を理論面からサポートした。

 半年と経たないうちに、ゼロ金利回帰を決定するようなことがあれば、極めて大きなクレディビリティの問題を生じることになる。先進国の中央銀行として取り返しの付かない汚点を残すことになる。「景気がスローダウンする」だけでは、ゼロ金利回帰はない。「ゼロ金利回帰」は「経済破綻シナリオ」以外とは整合的ではない。

 それでは、「経済破綻」とはどのような状況であろうか。まず、最初に想定しなければならないのは、複数の大型倒産の発生と、それを起点とした連鎖倒産の発生である。そしてこれが、社債等の企業信用市場における全般的な「リスク回避的な動き」につながり、いわば「システミックな」信用不安が再燃することである。もはや、一部企業の信用の問題ではなく、日本企業全体のデフォルト・リスクが上昇し、資金の流れが止まるような状態であろう。

 このような状況の下では、企業や個人のマインドは大きく後退する。個人消費は一層低迷するとともに、設備投資も大きく減速する。この結果、「需要面の失調」に起因するデフレ圧力が高まり、新たな物価下落トレンドが始まる。実質成長率はゼロ近傍、名目成長率はマイナス1%以上ということになろう。これが、「経済破綻」の状況であり、このような状態になれば、日銀が自らゼロ金利回帰を打ち出さざるを得なくなるとみられる。

 こうした「経済破綻」が実際に起こる可能性はどのくらいあるのであろうか。個人的には、現段階では、その可能性は極めて小さいと考えている。その最大の理由は、「企業リストラの継続」がみられていることである。確かに売上環境が改善した今年度は、昨年度ほどの激しいリストラが行われているわけではない。しかし、企業リストラは休止状態にあるわけではない。企業所得の改善に比べて家計所得の改善は緩やかなままであるし(企業売上げは前年比3%以上で走っているとみられるが、家計所得は前年比1%程度であり、明らかに家計所得がアンダーパーフォームしている)、銀行貸出も前年比マイナス4%程度の低迷が持続している。

 企業リストラの継続は、家計部門からの継続的な所得移転をもたらすとともに、企業バランスシートの持続的な改善をもたらす。こうした状態は、株価を下支えするとともに、設備投資の高めの伸びをもたらすことになると考えられる。来年度にかけて、企業の所得環境は明らかに悪化する。しかし、株価の一段の下げ、設備投資を含めた内需の大幅減退を想定する必然性には依然として乏しい。

 「経済破綻リスク」の可能性が低い以上、ゼロ金利回帰を「投機的に」予想することは極めてリスクの高い投資戦略であると言わざるを得ない。とりわけ、国債に関しては、国内金融機関が抱える価格変動リスクが過去に例を見ないほど多きくなっていることからすれば、より慎重な投資スタンスが要求されよう。

以 上  
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