2011年05月16日

白川 浩道
“復興投資で景気回復”のシナリオは描けない


 東日本大震災から2ヶ月強が経過した。

 夏期電力不足問題やサプライ・チェーン寸断に関しては、ここ1、2週間、明るい材料の方が多い。 当初1,000万キロワットを大きく上回ると予想されていたピーク時の東電管内における電力不足は500万キロワット程度まで縮小した。 15%節電が行われれば、停電のリスクは限りなくゼロに近いとみられる。 また、年内は困難かもしれないとみられていたサプライ・チェーン(メーカーの部品調達網)の完全復活も9月頃に見込めるようになってきた。 さらに、震災直後に大きく落ち込んだ消費マインドもゴールデン・ウィーク前後からは回復し始め、5月には個人消費が大きくリバウンドする可能性もある。

 このように民間経済の回復力は当初予想を上回っていると判断される一方、政府の動きは鈍い。 すなわち、2011年度第2次補正予算に関する本格的な議論は8月以降に先送りされる方向だ。 復興投資の負担を極力小さくしたいという政府の思惑が次第に前面に出つつある。

 政府が大規模な復興投資に躊躇しているのは、大規模な復興投資を決断すれば、復興税としての消費税増税が不可避となり、その結果、社会保障目的の消費税増税(2014年度ないし2015年度における実施が政府の目標)を断念せざるを得なくなるリスクがあるためである。 復興税としての消費税増税という“先行増税”によって個人消費が低迷がすれば、政権が不安定化し、社会保障財源確保のための消費税増税はまさに絵に描いた餅に終わる可能性がある。 政府はそうした事態をどうしても回避したいということであろう。

 復興投資をミニマイズ(最小化)し、先行増税をミニマイズしたいという政府の意志はかなり強いと読まねばならない。 個人所得税の定率10%増税を復興税とするというアイデアは、“復興投資は3兆円規模で良い”というメッセージに他ならない。 被災地の経済損失額は16〜25兆円と推計されており、一部には政府が10兆円規模の公共投資を行うべきとの意見もある。 政府の復興投資が3兆円規模であれば、期待と現実のギャップはかなり大きい。

 大型復興投資論を封印してしまいたいと考えた場合、政府は国民に対して「社会保障目的税としての消費税を大幅に増税する必要がある(だから復興税としての消費税増税は見送らざるを得ない)」と強く訴えることになろう。 6月下旬の国会会期末までに提示される見込みの「税と社会保障の一体改革に関する報告」は、消費税増税のタイミングと増税幅を具体的(例えば、“2015年度までに10%まで引き上げ”など)に示す可能性が十分にある。

 そして、「税と社会保障の一体改革に関する報告」が提示された後の政治情勢は急展開をみせる可能性がある。 衆院解散もあり得、いわゆる“大連立”を模索する動きが加速する可能性がある。 大連立となれば、8月以降の新政権は、小規模の第2次補正予算と「2014ないし2015年度の消費税増税の法制化」に着手するであろう。

 この時点で、「大型復興投資と日銀による国債引受けで日本経済が浮上する」という景気回復シナリオは完全に絶たれることになる。 国債市場は歓迎し、株式市場は暗いムードに苛まれる(さいなまれる)ことになるであろう。

 現政権の政策運営の姿勢は、大震災が発生しても“景気刺激”ではなく、“財政再建”なのである。 財政再建を進めることは悪い話ではない。 しかし、世界の株式投資家はそうは受け取らないであろう。 再建=緊縮=景気悪化、という流れを重視するのである。

 

以 上
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