2011年06月14日

白川 浩道
先行き見通し暗い株式市場


 サプライ・チェーン(部品供給網)の回復は当初の予想を上回るペースで進んでおり、生産活動には薄日もさしているが、株価は弱含む展開となっている。 市場の先行き景況感は改善するどころか、悪化している。

 市場の先行き景況感の重石となっているのは、世界景気の先行き不透明感の高まりと、国内政治情勢の不安定化である。 世界景気の先行き不透明感がある程度払拭されるとともに、国内政治情勢が安定を取り戻さない限り、市場の閉塞感が解消される可能性は低く、株価が上昇経路に戻る可能性も低いだろう。

 世界景気の先行き不透明感をもたらしている元凶は、5月下旬にかけての米国個人消費関連データの悪化である。 米国世論調査機関ギャラップの調査でみた消費者マインドは二番底の様相を呈し、週間小売売上高も失速傾向にある。 さらに、個人消費の失速を受けて雇用の伸びが鈍化し、5月の雇用統計は市場予想を大きく下回った。

 なぜ米国個人消費の脆弱性が足元で一気に顕在化したのか。 第1に指摘すべきはインフレ率の上昇である。 消費者物価前年比は3月には2%台半ばを超え、4月には3%も超えた。 他方で時間当たり報酬でみた賃金の上昇率は2%程度の横這いに止まっている。 インフレの昂進による実質所得の目減りは低・中所得層の消費を冷え込ませた。 第2に、金融当局(連邦準備制度理事会)が量的金融緩和の終了を宣言したことから、株価の上昇期待が止まり、富裕層の消費意欲が減退した。

 米国個人消費関連データの早期回復は期待できるのか?答えはノーだ。 低・中所得層の消費と富裕層の消費が“同時に盛り上がる”シナリオを描くことは極めて困難であるからである。 低・中所得層の消費が回復する条件はインフレの沈静化であるが、富裕層の消費が回復する条件はインフレ期待の再上昇(それによる株価の再上昇)である。 残念ながら、金融当局はこの矛盾を解決できない。 金融緩和を追加すると宣言すれば、インフレ期待が高まり、株価上昇を期待する富裕層が消費を増やすかもしれないが、ドル安、ガソリン高、食料品高を予想する低・中所得層のマインドは一段と悪化するだろう。

 国内政治情勢はどうか。内閣不信任案が否決されて以降、まさに混沌と呼ぶのがふさわしい状況が続いている。 一旦浮上した「大連立」構想は崩壊しかけていると読まざるを得ない。 第2次補正予算では10兆円規模の追加財政出動が視野に入りつつあるが、財源論が迷走状態にあり、与野党協力の目処は立っていない。

 すなわち、自民党はいわゆる“4K”支出(子ども手当て、個別農家所得補償など)の大幅見直しと公務員人件費の大幅削減による財源捻出を主張しているが、政府・与党は個人所得税など基幹税の増税による財源確保に拘泥している。 両者の溝が埋まるための条件は民主党が次のリーダーに“4K”見直しに前向きな人物を選出すること、であろうが、現状では不透明感が強い。

 ただし、政治の混乱が向こう2、3ヶ月以上にわたって継続することはないとみられる。 最終的には年度下期入りを前に特例公債法案(赤字国債法案)を成立させる必要があり、結局は何らかの妥協が成立することになると考えられる。

 妥協のパターンは2つしかない。 “4K”大幅見直しの容認か、復興増税の容認、である。 このいずれになっても、国内個人消費の減速懸念が強まる可能性が高い。 国内政治情勢が安定化しても、国内景況感が改善するわけではない。

 株式市場に明るさが戻るためには世界景気の先行き見通しが改善することがどうしても必要であり、さらには米国個人消費に代わる世界経済の新たなエンジンが出現することが不可欠である。 世界経済の新たなエンジンとしては、新興市場国経済における個人消費の拡大が最有力だ。 しかし、穀物インフレに沈静化の兆しはなく、新興市場国の消費者がインフレにあえぐ状態が暫く続きそうである。 株式市場の先行き見通しは当面暗い。

 

以 上
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