2011年09月30日

白川 浩道
ギリシャ問題とユーロの先行き


 欧州ソブリン危機が深刻化している。欧州当局の事態収拾能力は大きく低下しており、本格的なコンフィデンス・クライシス(市場の信認崩壊による金融市場の大混乱)が発生する可能性が徐々に高まっている。

 G7会合やG20会合の議題は、過去1ヶ月程度、"欧州ソブリン危機問題をどのようにして収束させるか"という一点に集中している。 伏線はスイス中央銀行(中銀)による為替レート・ターゲット政策―対ユーロで1.2を超えるスイス・フラン高を容認しない政策―の導入だ。 スイス中銀は数ヶ月前からスイス・フラン高を警戒する姿勢を示しており、本政策もその延長線上にはある。 しかし、対ユーロでの無制限為替介入はスイス中銀によるユーロ債(短期債)無制限購入を意味するため、本措置は、スイス・フラン相場の安定化というよりも、ユーロ圏の国債市場安定化を狙った措置であると解釈するのが妥当である。 EFSF(欧州金融安定化ファシリティ)を中心とした問題国救済スキームが崩壊するかもしれないという懸念がユーロ圏国債市場やインターバンク市場の機能を麻痺させつつある中、スイス中銀が助っ人を買って出たということである。

 そうした事態の深刻度とは裏腹に、G7やG20の最近の声明文では、欧州ソブリン問題の危機的な状況を訴えるような記述はなく、内容も希薄なものであった。 だが、そうした声明文こそ、各国が危機対応モードに入ったことを示唆している。 問題が深刻であればあるほど、声明文では問題に対して踏み込んだ記述を避けようとする傾向があるからである。

 危機の深刻化をもたらしている最大の要因は、ドイツ政府が問題国支援に後ろ向きの姿勢を取り始めていることである。

 ドイツ政府はユーロ共同債構想―各国がそれぞれに国債を発行するのではなく、ユーロ圏としてまとめて国債を発行しようという構想で、いわばドイツなどの健全国がギリシャなど問題国の信用を肩代わりすることを意味する―に改めて反対の意向を示しているほか、ECB(欧州中央銀行)による問題国の国債購入を批判する動きもみせている。

 衝撃的であったのはシュタルクECB理事が9月9日に突然、辞任を表明したことである。 G7会合にタイミングを合わせた同理事の辞任は、「財政問題のツケを中央銀行に押し付けることは許容できない」というドイツ政府の姿勢を反映したものであったといえる。 メルケル首相もECBによるイタリア・スペイン国債の購入に対して既にかなり否定的な姿勢を示したとされており、安易な救済に対するドイツ政府の反対姿勢は強まっている。

 ドイツ憲法裁判所も、ドイツ政府による問題国支援は違憲ではないとしながらも、今後の資金支援については"下院予算委の承認を義務付ける"との判断を下した。 法律的にもドイツの問題国支援は一歩後退した。

 そもそも、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルはソルベンシー危機(財政破綻危機)に直面しており、[1]政府負債元本の大幅な削減、[2]経済成長加速措置の導入、が不可欠であるが、ギリシャ向けの第2次支援パッケージは、[1]、[2]のいずれの要素も欠いている。

 しかも、フィンランドなど一部のユーロ諸国は、ギリシャ政府に対する資金支援について現金での担保を要求している。 足元では、第1次支援パッケージにおける第5次融資ですら実行に手間取っており、ギリシャ支援の第2次パッケージがスムースに履行される可能性は大きく低下している。

 流動性危機(金詰り)発生のリスクを認識したギリシャ政府は、固定資産税の新設や公務員の大幅削減などを打ち出しているが、そうした財政健全化策が国際社会の信認を得るとは限らない。 新規の資金支援が滞れば、ギリシャの資金繰りは向こう数週間で行き詰るリスクがある。 ギリシャ政府は、10月下旬の国債元利払いを実行できないかもしれず、その結果、各国は、ギリシャの政府債務の一部を免除せざるを得ないという苦渋の選択を迫られる可能性がある。

 今後の展開(中期展望)はどうなるのか。 シナリオは2つである。 第1のシナリオは、ギリシャのユーロ圏離脱である。 第2のシナリオは、ユーロ共同債の発行と財政統合である。

 第1シナリオにとってのハードルは、ギリシャ政府の強烈な反発であろう。 ユーロ離脱後にギリシャが資本市場アクセスを維持するためには、通貨価値の大幅下落(大きくアンダーバリューされた新通貨の導入)がどうしても必要になる。 割安通貨でない限り、世界資本市場はギリシャ向け債権を保有したがらないからだ。 割安通貨の導入はギリシャにハイパー・インフレと貿易赤字の大幅拡大をもたらす可能性が高い。 その帰結は社会情勢の不安定化である。 ギリシャ政府はユーロ圏離脱を望まないはずだ。

 第2のシナリオの問題点は、財政規律を維持する現実的なメカニズムを導入できない可能性があることである。 ユーロ共同債発行と財政統合には強力なモニタリング・システムの導入が不可欠である。 "問題国に健全国の信用を貸与して資金調達を助ける"という壮大な補助金制度には、制裁メカニズム(財政規律の達成が不十分な国に制裁を加える制度)の導入が必要となる。 それができないとなれば、第2のシナリオは崩壊する。

 一方で、"現状維持としての第3シナリオ"を予測することは限界に来ている。 欧州当局は、第1シナリオと第2シナリオの間を右往左往するだろう。 混乱は通貨ユーロの信認を大きく低下させ、為替市場では向こう数ヶ月以内に1ドル1.0ユーロをうかがう展開になると読む。

 

以 上
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