2011年10月31日

白川 浩道
欧州ソブリン危機問題とユーロ安


 欧州の首脳は、ギリシャ危機に端を発したソブリン問題(国債市場混乱問題)をどのように収束させようとしているのであろうか。そして、欧州が描くシナリオは上手く行くのであろうか。

 まず、ギリシャの問題は、同国をどのように救済するのか、という問題ではない。どのように立て直すのか、という問題でもない。基本的には、同国をユーロ圏から切り離すのかどうか、という問題である。

 きわめて残念なことであるが、ギリシャ経済は、アングラ経済(地下経済)が国内総生産の3割近くの規模に達している(日本や米国は1割に満たない)、政府組織の腐敗度(汚職、脱税の深刻度)がきわめて高い、という2点において、先進国の中でもっとも財政再建可能性の低い国である。ギリシャ政府や議会は、増税、公務員人件費・年金支払いの削減といった財政構造改革策を数度にわたって決めてきたが、その実効性は低く、財政赤字が減る気配はまったくない。構造的に財政緊縮策はワークしないのである。

 いっそのこと、公務員削減を棚上げし、むしろ年金支払いも従来どおりきちんと行い、観光業などへの政府補助金を増やした方がいいのではないか。そうすれば、街は綺麗になり、デモもなくなり、治安も改善し、観光客が戻ってくるかもしれない。そもそも、観光業と海運業が主要産業であるギリシャにとって、社会情勢や治安を悪化させる財政緊縮策は逆効果を持つ。ギリシャに財政引締めを約束させて資金援助をするという、これまでの手法が見直しを迫られているのは明らかだ。

 しかし、現実のその逆のことが起こっている。国内総生産の160%に及ぶ政府借金(40兆円弱)の50%を棒引きしようというのである。確かに50%の借金を棒引きすれば、ギリシャの借金返済負担はそれなりに軽減され、デフォルト(破綻)のリスクは“短期的には”幾分低下する。しかし、50%の借金棒引きと引き換えに、ギリシャはより厳しい財政緊縮を迫られることになる。借金棒引きはドイツやフランスの銀行にそれなりに大きな負担であり、場合によって税金投入が必要になる可能性もある。ドイツやフランスの国民は「ギリシャ政府をもっと締め上げるべき」という方向に傾く可能性が高い。しかし、ギリシャという国は国際社会が強く当たれば当たるほど、社会・経済情勢が悪化し、再建のチャンスを失う。

 やはり最終的には、ギリシャはユーロ圏から離脱するしかないだろう。国際社会はこれまでギリシャに貸し出した債権のほぼ全てを諦める一方、今後追加的な援助には一切応じない、という形で手を引くことになるだろう。ギリシャ政府は、年金、雇用、ゴミ収集、治安などの問題を自国民とのみ相談して決めていくしかないのである。通貨ユーロの体裁を重視し、ギリシャを域内になんとか止めるという欧州首脳のシナリオが上手く行く可能性は低い。

 さらに懸念されるのは、大国イタリアが表舞台に登場したことである。イタリアはみかけ上、財政赤字額や対外赤字額がさほど大きくなく、ギリシャほど深刻な問題を抱えているわけではないようにみえる。しかし、一部の研究者の分析によれば、イタリアは、欧州の中で、アングラ経済規模と政府組織の腐敗度がギリシャに次いで大きいし、高い。政府借金の国内総生産比も130%近くで、ギリシャに次いで高い。

 イタリアはギリシャに次いで財政再建可能性が低いと判断せざるを得ないのだ。この点は大変憂慮される。イタリアの経済規模はギリシャの7倍強、ユーロ圏経済の17%を占める。当たり前のことであるが、財政再建可能性が低いからといってイタリアをユーロ圏から離脱させるわけにはいかない。イタリア政府の借金総額は200兆円を超えており、世界の銀行がイタリア向け債権を放棄するのも容易ではない。イタリアがユーロ圏から離脱する時は、すなわちユーロそのものが崩壊する時である、と考えざるを得ない。

 このことは、通貨ユーロの将来が決まるまで(そもそもメルケル首相とサルコジ大統領の2人がユーロの将来を決めようがないが...)は、最終的にはワークしないとわかっている政策を騙し騙し使っていくしかないことを意味する。

 当面のシナリオは、イタリアの政府借金も、スペインの政府借金も、ギリシャほどではないが、幾分の棒引きを行い、その銀行部門へのダメージが大きなものにならないように、市場の心理を支えるべく、“見せ金”としての公的資金を用意するというものになる。“見せ金”は、EFSF(欧州金融安定化ファシリティ)が出資して作るSPV(特別目的会社)に積まれることになる。目安は5,000億ユーロ、日本円にして54兆円程度である。

 EFSFとIMFがそれぞれ1,000億ユーロ拠出するとみられるため、SPVは3,000億ユーロ規模の資金を世界中からかき集めなくてはならない。問題は、通貨ユーロの将来に暗雲が垂れ込めている中で、3,000億ユーロの資金を簡単に集められるか、である。

 この問題は、国際政治問題であると同時に、経済学の問題でもある。欧州SPVへの出資にリスクがあるのであれば、出資国は、出資時点までのユーロ安と高利回りを要求するだろう。出資後のユーロ安リスクが大きい状態や低利回りは許容しにくい。

 SPVは高利回りでの資金調達を受け入れられるのか。答えはノーである。高い金利でSPVから資金を受ける銀行はいないからであり、公的資金が絵に描いた餅になるからだ。従って、欧州に残された選択肢はユーロ安しかない。ユーロ安にしなければ、資金が順調に集まる保証はない。ユーロの当局は、ユーロ安が輸入インフレをもたらすリスクを無視する形で、ユーロ切り下げに動くしかない。ECB(欧州中央銀行)による強引な利下げというのが最もあり得る政策対応であり、年内に利下げがあるかどうかに注目したい。

 

以 上
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