2011年12月05日

白川 浩道
独、仏、米、IMF


 ギリシャに続いて、イタリアの国債も大きく値を下げた。 自国の政治情勢の混乱に加え、独・仏の意見がまとまらず、危機対応が後手に回ったため、市場の信認が失われたからである。 10年物イタリア国債の価格は、11月半ばまでに、額面100に対して83程度まで下落した。 100を切ったのが6月下旬であり、5ヶ月弱で80強まで下落した。

 イタリア国債価格の下落ペースはギリシャ国債に比べれば、ややマイルドだ。 ギリシャ国債は額面割れから3ヶ月程度で80割れに追い込まれた。 ただ、ギリシャ並みに価格下落が長期化した場合、2012年末のイタリア国債価格は50程度に下落してしまう可能性もある (因みにギリシャ国債10年物の価格は足元で25しかない)。

 イタリアの国債市場まで動揺が及んだことで、さすがにドイツ政府も危機感を強めている。 イタリア問題を放っておけば、ついにはドイツまで危機が波及するリスクがあるからである。 実際、ドイツ国債でも入札が不調に終るという事態が発生している。

 しかし、重い腰を持ち上げたドイツのスタンスはあくまでも強硬である。 ドイツは、ユーロ圏における“財政統合”の必要性を主張しているのだ。 それは、“ユーロという共通通貨の信認を維持するためには、各国が独立的に財政政策運営を行うという現在の制度を見直し、ユーロ圏の中央組織が統合予算を一元的に管理すべきだ”という考え方である。 ギリシャやイタリアなどの高債務国は財政運営に関する国家主権を放棄せよ、ということに他ならない。 問題国が財政政策の裁量を手放せば、市場の信認が回復し、ユーロの崩壊は防げるという、まさに強者の論理である。

 ドイツのこうした姿勢の裏側には、問題国に対する強い不信感がある。 南欧諸国には自力で財政や経済を立て直す能力はない、と言いたげである。 問題国には徹底管理あるのみで、自由や裁量を与える余地などない、というのがドイツ人の哲学といえよう。

 ドイツは、表面的にはフランスと協調行動を取っているが、“中央銀行がユーロ紙幣を刷ってイタリア国債を購入し、ユーロの為替相場も安くできれば、財政問題など簡単に終る”というフランスの現実路線を内心では軽蔑している可能性が高い。 既に、独・仏間には大きな溝ができていると考えられる。

 こうした中、ドイツとフランスの考え方の違い、路線の違いを傍観できなくなったのが、米国である。 “財政統合か、紙幣増刷か”という独仏哲学論争の結果、危機対応がさらに遅れれば、世界的な信用収縮が発生し、これまで好調であったアジア経済が失速する可能性がある。 そうなれば、外需依存度が高まった米国景気も大幅に悪化し、政権政党である民主党は大統領選で大敗を喫する可能性がある。 ティ・パーティの台頭など右傾化する共和党に政権を渡すことは危険であると考えるオバマ政権は、なんとしても欧州危機を終息させたいと考えている。

 そこで米国が持ち出してきた切り札がIMF(国際通貨基金)だ。 景気失速を恐れるアジア諸国と日本の豊富な外貨準備を取り込んでIMFの資金能力を拡大させ、一気にイタリアに資金を投入し、事態の収拾を図るというシナリオである。 イタリア政府さえ“うん”と言えば、IMFが乗り込んで財政政策をコントロールするということだ。

 独・仏は、IMFとその裏側での米国の関与の強まりにどう対応するだろうか。 フランスは米国にすり寄るだろう(IMFトップのラガルドはフランス人だ)が、ドイツは“ユーロの信認問題は当事国で解決するから、放っておいてもらいたい”と言うであろう。 米・仏・IMF対ドイツという対立の構図が強まれば、事態は収束するどころか、一段と複雑化、悪化する。

 やはりドイツがIMFの介入強化を認めなくてはならない。 そして、そのためには、大手金融機関の破綻などの大きなイベントが必要になるとみられる。 大手金融機関の破綻と混乱というイベントが起これば、ドイツもIMFの関与を受け入れざるを得なくなる。

 言葉を換えれば、事態収束の直前には、世界の金融市場を揺るがす、何らかの大きなイベントが発生する、ということである。 市場関係者や投資家はイベント・リスクを十分に警戒すべきである。

 

以 上
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