2011年12月26日

白川 浩道
2012年の世界景気:アジアを警戒すべき


 2012年の世界景気を展望しておこう。結論から言えば、不確実性はあるものの、世界経済が再び景気後退局面に入る可能性は低い。 最大のポイントは、"過剰投資あっての不況"、という点だ。 好況が続き、設備・住宅投資が過剰なまでに拡大した場合には、その反転縮小によって不況が発生する可能性が高いが、過剰投資が生じていなければ、不況も起こらない。

 先進国の実体経済は、リーマン・ショック後の深い景気後退からなんとか立ち直ってまだ日が浅い。 好景気やブームと呼べるような経済状態はいまだ経験しておらず、過剰な投資など、どこにも発生していない。 投資ブームがないので、ブームの終息、つまり投資不況も発生しないだろう。

 この点をもう少し解説しよう。 景気後退→企業のキャッシュフロー悪化→借入と設備投資の削減→景気安定→企業キャッシュフローの回復→借入と設備投資の増加(投資ブームのスタート)→過度な設備投資(投資ブームの拡大)→投資ブームの終息(破裂)→景気後退、というのが、一般的な設備投資の循環であり、そのサイクルは、先進国の場合で、7〜8年程度だ。 2009年半ば頃が設備投資の底であり、現在は7〜8年循環のうち3年弱が経過した時点に相当する。 登山で言えば、"3〜4合目"である。 過去のパターンをみると、企業は"5合目"あたりから借入を積極化させる傾向がある。 現状では、借入と設備投資の同時的な増加(投資ブームのスタート)というフェーズにもまだ至っていない。 「ブームなくして、バスト(破裂)なし」なのである。

 「欧州のソブリン危機がクレジット・クランチ(信用収縮)に発展すれば、投資不況が発生するのではないか」との見方はあり得る。 しかし、クレジット・クランチが直接的に欧米の投資不況をもたらす可能性は低い。 多くの企業は売上やキャッシュフローが伸びている限り、ある程度設備投資を増やそうとするだろう。 過去2、3年、投資を控えてきたからだ。 金融機関が資金を融通してくれなくても、手元資金での投資を続けるはずである。

 従って、欧州ソブリン危機の問題については、それが欧米の個人消費を冷やし企業売上を縮小させるかどうか、という問題として捉えるべきだ。

 この点については、欧州ソブリン危機によって欧米の個人消費が大きく減退する可能性は低い、と考えられる。 公的資金注入などが行われるため、仮に大手金融機関が破綻したにせよ、金融システム不安によって消費マインドが急激に悪化する可能性は極めて低い。 主要国の多くでは国政選挙が控えており、政治家はリスクを取れない。 大手金融機関の破綻というイベントは、一時的には、景気のマイナス材料にみえるかもしれないが、結果的には、「破綻の結果、公的資金注入が行われ、むしろ安心感が広がった」ということになろう。

 さらに、2012年は世界的にインフレ率が低下し、消費者の実質的な購買力が大きく向上する可能性が高い。 これも個人消費を支える。 また、米国では、財政引締め政策が先送りされる方向にある。 大統領選を控え、民主・共和両党ともに実質増税に後ろ向きであり、個人向け減税措置は延長される見通しである。 インフレ率の低下と相俟って、米国個人消費は底堅く推移するはずだ。

 ただし、2012年の世界景気に警戒材料がまったくないわけではない。 それは、アジアにおける投資縮小の可能性である。

 アジア新興市場国では、既に過去15年以上にわたって投資GDP比率が上昇しており、先進国とは対照的に、投資ブームが発生しているとみられる。 つまり、アジア諸国では投資が過剰になっている可能性があり、向こう1、2年のうちに企業の投資マインドが一気に冷え込むリスクがある。 また、中国では、不動産価格の安定化を狙った引き締め的な信用政策の下で、都市部建設投資が大きく縮小する可能性もある。

 アジアの投資が調整局面に入った場合、米・欧を中心に個人消費が底堅い動きをしても、日本経済に一定のダメージが発生することは避けられない。 日本の海外現地法人の地域別の経常利益シェアをみると、足元ではアジアのウェイトが50%を超えているとみられ、アジア依存度が大きく高まっているからだ。 世界景気が全体として後退局面に入らなくても、アジア依存度の高さが裏目に出る可能性には注意が要る。

 

以 上
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