2012年03月01日

白川 浩道
市場の混乱は近い?


 前回のレポートでは、日本の国力の低下が貿易赤字の定着となって顕在化しており、
 1980年代前半から続いた円高傾向についに終止符が打たれる可能性がある、と指摘した。
 そして、早ければ今年の後半から悪い円安(対ドル)がスタートする可能性もある、と書いた。
 今日のレポートはその続編である。

 まず、1月の通関貿易赤字は1兆4,750億円となり、既往最大の赤字を記録した。
 この結果、対外資産の運用益である膨大な(金融)所得黒字を足しても、1月の経常収支は3,000億円程度の赤字となる見込みにある。
 これも既往最大の赤字(1980年代半ば以降)だ。


 アジア諸国の春節に伴って輸出が減少したことや、原発の連続的停止を受けて火力発電比率が大きく上昇し、LNGの輸入が増加したことが貿易赤字を大きく拡大させたのは事実である。
 2、3月には、貿易・経常収支ともにある程度改善する可能性もある。
 しかし、年間を通じて貿易赤字となる可能性が高い。

  1. アジア新興市場国の生産能力拡大を背景に国際的に競争環境が悪化しており、日本製品の輸出価格は下落を続けている、

  2. 産業空洞化の進展を背景に日本製品の逆輸入が増えやすくなっている、

  3. 高齢化の進展で医薬品などの医療製品の輸入が増加基調にある、

  4. 発電設備の老朽化に伴いエネルギーの生産効率が低下しており、エネルギー輸入が減らない、といった構造要因があるためだ。


 さらに、
  1. 欧米の景気回復期待と世界的な金融緩和の長期化は、原油価格や穀物価格を押し上げる。


 日本の輸入価格の上昇は止まらない。

 貿易赤字の定着による経常黒字の縮小は、金余りの縮小を意味する。
 「金余りの下で膨大な国債の発行が問題なく消化される」という保証はなくなっており、国債金利が上昇するリスクは高まっていると判断される。
 このため、政府・日銀は金融緩和の拡大によって国債市場を支えるという方策に打って出ざるを得なくなった。
 その結果が2月14日の日銀金融政策決定会合における追加緩和(日銀の長期国債購入額の10兆円積み増し)である。

 日銀の追加緩和決定を受けて為替市場では円相場が幾分下落した。
 しかし、下落幅は限定的であり、大きな動きが起こっているわけではない。
 問題は、今後の展開だ。

 筆者が強い関心を寄せているのは、国民の間に広く円安期待が生まれるかどうか、である。
 仮に広く国民が円安期待を持てば、国内貯蓄が海外に流出し、“自己実現的に”大幅な円安が発生することになる。
 そこでの円安はまさに悪い円安であり、債券安、株安を巻き込んだトリプル安となる可能性がある。
 市場混乱をもたらす円安だ。

 実は、国民の間に広く円安期待が蔓延する可能性は徐々に高まっていると判断せざるを得ない。
 「日本企業の国際競争力は磐石である」という企業神話が崩壊しつつあるからだ。

 金融緩和局面は既に20年にわたって継続しており、いわゆるゼロ金利政策もこの2月で13周年を迎える。
 財政赤字も過去20年にわたって拡大基調にある。
 それでも円高トレンドが変わらなかったのは、日本企業が高い競争力を維持し、貿易黒字を維持してきたからだ。
 逆に言えば、日本の輸出企業がついにギブ・アップし、世界規模での敗北を認めたとき、貿易赤字が長期化するという期待とともに企業神話が崩壊し、国民マネーのかなりの部分が海外に動くのではないか。

 日本の輸出企業がついにギブ・アップしたことを示すイベントとはどのようなものであろうか。
 個人的には、これまで最強と言われてきた日本の自動車産業の衰退を決定づける、何らかのニュースであると考える。
 それがどのようなものであるか、具体的にはわからない。
 しかし、自動車神話が壊れたときに円高神話が壊れる、という発想を持つことには意義があると考えている。

(了)

 

以 上
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