2000年12月13日

白川 浩道
労働代替的な投資が景気を下支えする?

 先週公表された第3四半期のGDP統計では、設備投資が7.8%増となった一方で、個人消費は0.0%の横這いとなった。個人消費は第2四半期もほぼゼロ成長(+0.1%)であり、Y2Kの反動や閏年効果によって2.0%成長となった第1四半期以降は、完全な足踏み状態にあることが確認された。こうした個人消費の弱さについては、株価の低迷や倒産の増加の下で消費者コンフィデンスの改善が遅れていることもあるが、最も大きな要因は、家計所得の伸び悩みにあるとみられる。

 すなわち、毎勤統計等に基づけば、家計所得は、本年入り後の平均で、前年比0.7%程度(名目ベース)で推移しているとみられるが、これは、前年比3%以上の伸び(7−9月期は全産業で+3.2%)を示している企業売上に比べて明らかに見劣りのするものである。企業売上の回復ほど家計所得は伸びておらず、企業・家計間の所得分配調整(労働分配率調整)が継続していることが示されている。

 こうした所得分配の調整は、短期的には個人消費の下押し圧力となるが、中長期的には望ましい動きと言える。雇用者所得の伸びが抑制されることにより、企業の利益率が上昇すると考えられるが、企業が雇用者所得を抑制することによって得たキャッシュフローを設備投資に活用すれば、労働生産性が向上すると考えられるからである。その意味では、雇用者所得の伸び悩みの下で、実際にどの程度、労働代替的な設備投資が行われているのか、また今後行われていくのか、といった問題は、日本経済の中期的な成長率を議論する上で極めて重要となる。

 さらに付け加えれば、日本経済において「労働代替的な投資」にモメンタムがつけば、国内におけるIT関連需要が目立って減速する可能性も低下し、懸念されている半導体、その他電子部品関連の生産調整も比較的軽微なもので済むものとみられる。所得分配調整とそれを背景にした設備投資といった、いわばビジネス・モデルの変化は、短期的にも景気を下支えする効果があり、見逃せない。

 さて、「労働代替的な設備投資」は、実際にどの程度の広がりを持っているのであろうか。ここで、労働代替的な設備投資を「ユーザーとしてのIT関連投資」と定義し、機械投資の先行指標である「機械受注統計」を用いて動向を窺うと、
  1. 製造業では、同投資が大きく拡大してきており、いまだ減速感はみられないこと。(製造業全体の電子・通信機械に対する発注は、7−9月期前年比+22.9%増加、民需機械受注全体<前年比20.4%>に対する寄与度も3.9%、10月も前年比+22.3%)
  2. 製造業におけるITユーザー投資の多くの部分は、IT生産者でもある電気機械による投資に依っているが、一般機械、化学、鉄鋼、自動車工業等、その他の業種にもそれなりに広がりがみられていること。
  3. 非製造業では、製造業に比べて同投資に対する出遅れ感があったが、ここに来てキャッチアップする姿がみられること。(通信、情報サービスといったIT生産者を除く合計でみた電子・通信機械に対する発注の前年比は7−9月期前年比+12.3%、民需機械受注全体に対する寄与度は+2.2%、10月は前年比+42.6%にさらに拡大)
  4. 非製造業については、運輸、卸・小売、金融・保険で着実かつ顕著な増加がみられており、E-commerce型産業への広がりが観察されること、を指摘できる。
 このように、労働代替投資の典型であるITユーザー投資は、製造業から非製造業へと広がりをもちつつ、今後さらに拡大していく可能性がある。非製造業は、これまで、製造業に比べて、バランスシート調整、コスト削減ともに遅れてきた。そして、その結果として、設備投資に対する意欲も低迷してきた。しかし、低金利の継続、雇用の持続的抑制の下で、徐々にバランスシート調整が進展し、コスト削減も進んできているとみられる。機械受注統計に表れているように、そうしたコスト調整が労働代替的な投資といった格好で需要面に好影響を及ぼしつつあるのである。

 設備投資は、ビジネス・モデルの発展を巻き込みながら、息の長い拡大局面を迎える可能性がある。世界経済の減速の下で、日本経済の減速は避けられない。しかし、これはあくまで「減速シナリオ」であって「景気腰折れシナリオ」とはならない。日本経済には、自律的な設備投資拡大余力が芽生えていることを見過ごしてはならない。安易な「景気悲観論」に陥ることは危険である。

以 上  
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