2012年05月01日

白川 浩道
金融政策論のあるべき姿


 
 
 
 

 2月14日に日銀がサプライズの金融緩和(長期国債購入を110兆円増額し、いわゆるインフレ目標政策を前進させた)を決めてから2ヶ月半が経ったが、この間の相場展開をもう一度振り返ってみよう。

 まず、2月13日の終値が77円台半ばであった円の対ドル相場はわずか1週間で80円割れとなり、1ヵ月後の3月14日には終値で84円弱まで下落した。
 まさに待望の円安であった。
 このため、日経平均株価は3月14日に10,000円台に乗せ、3月27日には10,255円強で引けた。
 サプライズ緩和によって、為替相場で6円強、株価で1,300円弱もの効果が出たのである。

 しかし、3月終わり以降は、サプライズ緩和に対する市場の熱は急激に冷め、円相場は再び80〜81円台まで円高化し、株価は9,500円を挟む展開になってしまった。
 焦った日銀は、4月27日に金融緩和策を追加し、長期国債購入を更に10兆円買い増すことにした。
 それでも、円安、株高が復活する可能性は高くない。実際、足元では再び円相場が80円を割ってしまった。

 日銀は2ヶ月半のうちに20兆円も国債購入を増やす(GDP比で4%超にも相当する思い切った緩和措置である)ことを表明した。
 しかし、それにもかかわらず、日銀を見る市場の目は厳しいというか、冷たい。
 なぜ市場は日銀の量的緩和策を素直に評価しないのであろう。
 同様の政策を米国FRBが決定したなら、急激なドル安とともにニューヨーク・ダウは暴騰するに違いないが、今後、日経平均はジリジリと下値を切り下げてしまう可能性すらある。

 筆者が考えるに、日銀の問題は3つある。
 この3つを是正しない限り、金融緩和はワークせず、円安・株高は来ない。

 第1の問題は、「金融緩和でデフレ脱却はできない」と日銀自らはっきりと表明していることである。
 今の日本経済には異常なまでの流動性選好、あるいは貨幣需要が発生している。
 つまり、個人も、企業も、稼いだ所得を普通預金などの手元流動性として蓄えるインセンティブが極めて強い。
 こうした状態はデフレ的均衡とも呼べるが、"とにかくデフレ下では安全資産で保有するに限る"、と誰もが思っている。
 そうした期待を変化させない限り、円安も株高も生じにくいが、日銀自身が
 「デフレは人口動態を中心にした構造要因によるものであるから、金融緩和してもデフレは解消しない」
 と堂々と宣言しているため、国民は益々自信を持ってカネを使わない。
 そして、そうした国民の行動が予想されるなら、金融市場が日銀の金融緩和に反応する理由はなくなる。

 第2の問題は、そもそも第1の点と大きく矛盾するのであるが、4月27日の会合で、
 「インフレ率は2014年度にはプラス1%に達しそうであり、さらなる金融緩和は不要である」
 と表明したことである。
 「20兆円の国債購入増額で十分にインフレになりそうだから、もう緩和追加は不要」と宣言されたら、市場のプレイヤーは怖くて円を売れないだろう。
 なお、「デフレは構造問題だ」と言っておきながら、「20兆円の国債購入でデフレ脱却だ」と宣言してしまう
 "大きな矛盾"が市場の日銀不信を高めていることは、改めて指摘するまでのこともない。

 第3に、これはやや技術的であるが、日銀は、市場が日銀に売りたいと思う資産を買っておらず、金融緩和の効果を半減させている。

 仮に金融市場あるいは金融機関が負うことができるリスクの総量が一定であるならば、日銀がある市場リスクを肩代わりすればするほど、金融機関は別のリスクを採ることができることになる。
 例えば日銀が金利変動リスクが大きい残存期間の長い長期国債を大量に購入すれば、
 市場の金利変動リスクが減少するため、市場は株価変動リスクなど他のリスクをより多く負うことができるようになる。
 その結果、株価が上昇することになる。

 しかし、日銀は、主として金利変動リスクが小さい残存期間の短い長期国債を購入する意向にある。
 これでは市場の金利変動リスク量はあまり減らず、株に向かう資金も増えないから、株価は上がらない。

 日銀が、金融緩和のデフレ解消効果を認めた上で、「状況によってまだまだ追加緩和が必要である」と表明し、さらに、残存10年超の長期国債を中心に購入することにすれば、市場の日銀不信が払拭され、円安・株高に転じるだろう。
 国会は、日銀法改正論など抽象的な方策ではなく、より具体性を持った政策提案とともに日銀に圧力をかけていくべきであろう。

(了)

 

以 上
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