2012年06月05日

白川 浩道
ギリシャのユーロ残留でユーロはパリティ割れへ


 
 
 
 

 ギリシャがユーロから離脱した時の混乱は計り知れず、ギリシャ、他の欧州諸国、そして世界全体がギリシャのユーロ圏残留を強く望むはずである。

 まず、ユーロから離脱した場合、ギリシャはハイパー・インフレ(急激なインフレ)、あるいは、強烈なスタグフレーション(高インフレと景気後退の共存)に悩まされることになり、国内経済の混乱は一段と深刻化するだろう。 ユーロからの離脱によって国際社会の信認を完全に失うギリシャが海外からの借り入れで財政赤字をファイナンスすることは極めて困難だ。 従って、ギリシャ中銀の紙幣増刷によって赤字国債の発行を維持するしかなく、離脱後の新通貨の為替相場はごく短期間に40〜50%程度は下落するだろう。 ギリシャの輸入GDP比は約30%であるが、その3分の1が原油、食料、医薬品などの必需品であり、価格や需要に対する感応度は低い。 このため、新通貨の下落は輸入インフレに直結する。 一部には、50%の新通貨下落でギリシャ国内の消費者物価が20〜30%は上昇するとの試算もある。

 強烈なインフレに見舞われたギリシャでは急激な内需の落ち込みが起こり、雇用が失われ、治安が悪化する。 観光収入が激減し、GDPはさらに縮み、税収は減り、財政赤字は増えるだろう。 このスパイラルの行き着く先は政府機能の完全停止である。 ユーロからの離脱はギリシャにとって自殺行為である。

 また、ギリシャのユーロ離脱は周辺国に甚大な影響を及ぼす。
 第1に、ギリシャの経済難民が押し寄せ、国内労働市場は大混乱するはずだ。
 第2に、ギリシャと同様に財政状態が脆弱でユーロ離脱リスクがある南欧諸国では、ハイパー・インフレによる資産価値の大幅下落リスクを回避しようと、国民が海外への資産移転を進めるはずだ。
 この結果、大手銀行が破綻するであろう。
 周辺国は金融・信用恐慌に巻き込まれることになるとみられる。

 南欧諸国が金融・信用恐慌に巻き込まれれば、コア諸国、ひいては世界的に金融システム不安が発生し、大不況に突入する。 ギリシャのGDP(国内総生産)は高々2,000億ユーロ(2,500億ドル)であり、世界GDP(約65兆ドル)の約0.4%に過ぎないが、その財政破綻がユーロという通貨システムの崩壊にまで繋がった場合、その経済コストは、数兆ドルの規模に膨れ上がってしまう。 ギリシャ離脱のダメージはあまりにも大きい。

 従って、6月17日のギリシャ総選挙で仮に極左政党が勝利し、第1党になったにせよ、ユーロ離脱論が進むことはないだろう。 主要国・IMFの首脳とギリシャの政党トップは、総選挙後1週間程度のうちに、ギリシャ政府による財政緊縮措置とギリシャ向け支援策の修正に合意するものとみられる。 ギリシャのユーロ残留と支援継続を決めるということだ。

 欧州諸国とIMFは、世界経済の大混乱を回避するために半永久的なギリシャ救済を約束させられることになる。 経済・財政構造が不健全な同国に政治的な配慮からユーロを導入してしまった、という過去の政策の過ちのツケを払わされるのである。

 ギリシャを切り離せないことは通貨・経済統合の失敗を是正できないことを意味する。 お荷物を抱えたままのユーロ圏経済に対する投資家の信認が回復することはないだろう。 混乱は回避できても、ユーロ相場の下落基調は継続し、向こう2年以内に、1ユーロ1.0ドルのパリティに戻り、その後、数年かけて、0.7〜0.8にまで下落するだろう。 単一通貨の導入という壮大な経済実験は今まさに音を立てて崩壊しようとしている。

(了)

 

以 上
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next