2012年07月10日

白川 浩道
市場は夏枯れ?


 

 欧州の情勢は、実態としては、あまり改善していない。事前予想どおり、ギリシャのユーロ離脱はなかったが、ギリシャ経済が回復する見込みが高まったわけではない。不動産バブル崩壊に苦しむスペインの民間銀行に対する公的資本注入の実施は10月以降になる見込みだ。ユーロ圏域内の銀行監督権限のECB(欧州中央銀行)への集約や、ESM(欧州安定メカニズム)による資本注入条件の決定には一定の時間がかかる。さらに、4大国際監査法人によるスペイン個別銀行の監査終了は9月下旬までずれ込む可能性が高く、注入額の確定は早くても9月末になりそうである。

 イタリア、スペインの政府が市場金利押し下げ策として期待しているEFSF(欧州金融安定化ファシリティ)やESMによる国債購入もすぐ始まるわけではない。そもそもイタリア政府はマイナスの心理的効果を恐れて、EFSFやESMによる国債購入を申請する予定は当面ないとしている。オランダやフィンランドなど健全国はあまい条件での国債購入に否定的だ。

 しかし、金融市場の欧州に対する評価は、6月末のEUサミットを境に変化した。すなわち、“政策対応が遅々として進まない欧州”から“政策対応を進めそうな欧州”に変わったのだ。こうした認識の微妙な変化が株式市場のセンチメントを支えている。このため、市場の関心は、世界景気は今後どの程度悪化するのか、というテーマにシフトしつつある。欧州景気が当面はリセッション(後退)的な状況にあることを前提とした上で、世界景気は一段と悪化するのか、低水準・横這いなのか、あるいは低水準ながら幾分なりとも回復するのか、という関心である。

 最近の主要国の景況感指標をみると、世界景気の一段の悪化が示唆されているとは言いにくい、“中途半端な状況”にある。足元6月については、米国製造業の景況感は悪化したが、ユーロ圏は下げ止まり、イギリス、スイスは改善、アジア新興国、日本はほぼ横這い、となっている。これまで相対的に堅調であった米国製造業の景況感が崩れてきたことは明らかに懸念材料だが、この点をどの程度深刻に考えるべきか、現状でははっきりしない。生産活動の先行指標である受注と在庫のバランスは幾分悪化したが、在庫水準が低いままであるため、深い生産調整が起こる可能性は低い。

 さらに、中国経済については、政策対応の効果もあって内需が緩やかに持ち直している、との見方ができそうである。実際、6月の非製造業の景況感は改善した。不動産価格にも下げ止まりの兆しがみられている。昨年11月以降の銀行信用の緩やかな回復が時間差を伴って顕在化してきたイメージなのである。世界景気は、全体としてみれば、低水準・横這い傾向にあるが、中国景気の一時的な持ち直しによって足元から若干上向く可能性が高い、と判断すべきであろう(ただし、日本の国内景気はエコカー補助金の終了や夏期電力制約などから、8、9月には一旦落ち込む可能性が高い)。ユーロ圏の政策対応と同様、世界景気に関しても市場の事前期待が低過ぎた感があり、短期的には市場の世界景況感は幾分改善しそうである。過度な悲観の修正である。

 欧州金融不安がやや後退し、世界景気に対する過度な悲観論も修正されるなら、世界の株価はここから上昇するのであろうか。答えはノーである。第1に、株価は6月に大きく上昇してしまった。第2に、悲観論は後退したが、楽観論を後押しするような新しい材料は、国内外ともに全く見当たらない、第3に、欧米で金融不祥事が発生する中、金融規制・監督強化の流れは変わっていない。日本の場合、政権交代観測が強まれば、新規の株買い材料になる可能性があるが、その兆しは見えていない。7月以降の相場展開は、比較的狭いレンジでの小動きではないか。株式市場は、むしろ、テーマなき夏枯れを憂慮することになるかもしれない。

(了)

 

以 上
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