2012年08月26日

白川 浩道
終焉近い円高局面?


 

 金融市場ではひそかにある動きが起こっている。 それは円高の終焉を期待する動きだ。円高局面がついに終盤を迎え、徐々に円安局面に入るのではないか、ドル円相場でみた場合、円の高値は75円程度で、それ以上に円高が進むことはないのではないか、といった思惑である。 こうした円高局面終焉期待は、日経平均株価の下支え材料になっているだけでなく、様々な外貨建て投資信託(為替リスクをヘッジしないタイプのもの)の好調な販売をもたらしている。 個人投資家の間でも緩やかな円安期待が生まれつつあるということだ。

 なぜこのようなことが起こっているのか。 「円は実力以上の過大評価を受けており、そうした過大評価は早晩修正されるだろう」という投資家の肌感覚が一番大きな要因であるが、そうした肌感覚は基本的には妥当なものであろう。 実際、以下のような3つの要因からすれば、(対ドルでの)円高終焉は遠くないと思われる。

 第1に、日本の輸出企業の更なる凋落である。 既に数年以上前から、電子部品、電気機器は日本の構造不況業種となりつつあったが、足元では体力の一段の低下が顕在化し、大手電気メーカーの一角には破綻懸念すら出ている。 日本の輸出競争力の低下は、東日本大震災発生以降、17ヶ月にわたって貿易赤字が継続していることにも、はっきりと現れている。 原発停止・火力発電への移行・エネルギー輸入の増加が貿易赤字転落の背景であると思い込んでいる政策担当者も多いが、これは誤りである。 輸出が回復しないことが貿易赤字の最大の要因なのだ。 日本企業はマクロ的にみた場合、円相場が70円台の後半では生き残れないのである。

 第2に、ドル相場の下げ止まりである。 欧州財政・金融危機を背景にユーロは長期的な下落局面に入ったとみられるが、加えて、新興市場国通貨、資源国通貨のドルに対する上昇余地も限られるだろう。 2002年頃から始まったドル全面安局面は約10年の歳月を経て終焉を迎えつつあると考えられる。 "相対的に元気な米国景気"という要因もあるが、世界の基軸通貨としてのドルが見直され始めている可能性に注目すべきであろう。 ここで、中東情勢、北東アジア情勢がともに不安定化している点は見逃せない。 円は対ドルで緩やかな上昇を継続させてきた稀な通貨だが、北東アジア情勢の悪化という地政学リスクには弱い。

 第3に、日銀総裁人事である。 白川総裁の任期は来年4月初までであり、再任の可能性は低い。 市場では既に後任人事に大きな注目が集まっているが、財務省OB、経済学者など複数いる候補者の全てが現総裁よりも金融緩和に前向きな人物(ハト派)であるとみられている。 白川総裁以上のタカ派(緩和に否定的な人物)が後任にならない限り、金融緩和は前進する可能性が高く、円高局面も終わる、というわけである。

 このように、円高・ドル安の終焉は視野に入った、とみてよいだろう。 対ユーロでは円高がまだ幾分進む可能性はあるが、対ドルでは緩やかな円安を予想していくべきではないか。 "強いドル"政策の復活を掲げる共和党のロムニー候補が11月初の大統領選に勝利すれば、市場のドル高期待に弾みがつく可能性もある。要注目である。

(了)

 

以 上
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