2001年03月13日

白川 浩道
焦点:与党緊急経済対策は何が問題か
 3月9日夕方、与党3党から緊急経済対策が発表された。金融・産業再生、金融緩和要請、証券市場活性化、新市場開拓による雇用創出、都市再生、土地流動化、消費マインドの高揚、と、項目は威勢良く並んでいるが、これまでのところ、市場の反応は極めて冷めたものとなっている。こうした市場の冷淡とも言える反応の背景には、いくつかの要因があり、そうした要因からすれば、市場の冷めた反応は極めて合理的と言える。月末にかけて策定されることになっている、不良債権の最終処理に関する金融庁の指針が市場にとっての次なる材料となるが、それも期待外れに終われば、新年度は、非常に暗いムードで明けることになりそうである。

 さて、市場の緊急経済対策に対する冷めた反応の背景であるが、まず、第1には、政治不信である。森首相の退陣が事実上決まったとは言え、参院選挙に向け、政治情勢は不透明性を増している。このため、今回の緊急経済対策が、そもそも、「誰のイニシアティブによって、いつまでに、そしてどのように実行に移されていくのか」、非常に読みにくい情勢となっている。

 第2には、対策を策定した与党が、財務省と何らの事前協議も経ていないことが明らかになったため、税制の改正が柱となっている、証券市場活性化策や土地流動化策の実現可能性に大きな疑問符がついてしまったことである。財務省高官からは、事前協議がなかったことへの不満が示される一方、自分たちが対策の策定過程に関与していなかったことを前向きに評価する意見も出ている。すなわち、事前協議がなかったことは、税当局として今回の対策に何らのコミットメントも行っていないことになり、むしろ都合が良いということである。財務省は今回の対策に相当後ろ向きであると言わざるを得ない。

 第3には、本緊急経済対策には、構造改革に対する意気込みが欠落しているという大きな欠陥がある。すなわち、与党は、株価下落を食い止める方策として、株式市場の需給改善に注力する傾向から脱していない。対策には、今後も継続することが見込まれる持ち合い株式の解消売りに対抗する手段として、民間資金による株式買い上げ機構の創設、個人投資家による株式投資積極化を目的とした各種税負担軽減、郵貯による国内株式運用の積極化、といった措置が提唱された。このうち、株式買い上げ機構の創設はそもそも民間部門が資金拠出する可能性が低く実現性は低いが、そうした点にも増して致命的なのは、政府が株価低迷の本質を見誤っていることにある。株価低迷の根底には、日本経済の潜在成長率が生産性の低下によって低下していること、そして生産性の低下はオールドエコノミー企業の淘汰が遅れていることがある。株価の回復にとって本質的なことは、産業構造調整が、どのくらいのスピードで、どのくらい進展するのかであり、そしてそのために、政府が、銀行行政や財政政策の転換をどの程度真剣に考えているか、である。市場が政府に期待していることは、銀行行政や放漫な財政運営の是正である。銀行の自主的な判断による不良債権処理を認めるとともに、公共投資の大幅見直し(公共事業削減計画の提示)を中心とした財政構造改革を宣言することが必要である。生産性の低いオールドエコノミー企業に対する支援の打ち切りについて、政府がいかに明確にコミットできるかが、株式市場活性化の鍵を握るとみて良い。今回の対策では、銀行行政に関しては、何らの明確な指針も示されたわけではなく、ただ、倒産法制の整備が指摘されたのみであるし、また、財政構造改革に至っては一言も触れられていない。その意味では、今回の緊急経済対策は、不十分であるといわざるを得ない。

 第4には、以下のBOJウォッチにも指摘するが、金融政策への注文が非常に中途半端なものとなったことである。日銀の独立性に配慮したためか、金融政策への注文では、日銀がプラスのインフレ率をターゲットとするような「インフレ・ターゲティング」の導入を要請しているようなイメージは薄い。GDPデフレータでみてマイナス1.7%にも達するデフレ圧力は、実質金利の高止まりを招いている。株価対策の柱として極めて重要なのは、デフレ期待を是正することにより実質金利を低下させることである。そのためには、金融政策による積極対応を引き出す必要がある。与党として、財政構造改革や銀行の不良債権処理に対するコミットメントをはっきりさせていないことが、その反射として出てくる金融緩和への要請も中途半端なものとしている。市場は、マクロ経済政策の一大転換(財政緊縮と金融の大幅緩和)を読めずにおり、これが大きな問題である。

以 上  
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next