2001年03月19日

白川 浩道
為替円安はどこまで進むか

 円相場に対する下押し圧力が強まっている。日本経済の先行き不透明感が高まるなかで、当局のポリシーオプションとして「円安誘導」が大きくクローズアップされていることが背景にある。この点について、簡単に議論を整理しておきたい。

 まず、円相場にターゲットを設け(たとえば140円/ドルなど)「円安誘導」を行う場合、その実現に向けてどのような政策が行われる必要があるであろうか。基本的には、日米協調介入、しかも金融政策の変更を伴ったものが行われる必要がある。ただ、これは現実的ではない。なぜなら、日本による非不胎化介入は有り得ても、米国による効果的なドル買い介入の可能性は殆どゼロに近いとみられるからである。米FRBが、現在の景気・株価情勢の下でドル資金吸収圧力となるような介入に積極的に応じることには無理がある。財政政策による景気下支えがよほど大規模に行われ、金融政策はやや引き締め気味でも良い、との議論が出てこない限り、米国サイドの為替介入は腰の入ったものにはなり得ない。

 そうであるとすれば、円安については、「結果としての円安容認」でしかない。景気後退の下で、日銀によるアグレッシブな金融緩和が実施されることで、「結果として円安」になっても、日米当局は「容認を決め込む」といったものである。

 となると、次の論点はどのような条件が満たされれば、円が今の水準からさらに大きく安くなるであろうかという点である。この点について、旧長銀が破綻し、円相場が140円超の円安となった98年夏〜秋を振り返りながら、その条件を考える。具体的には、当社では、以下が円相場大幅下落の条件であるとみている。結論から言えば、現状では、これらの条件すべてが満たされる可能性は低いとみられるが、その多くの部分はクリアーされる可能性がある。円相場は年内140円程度にまで下落するリスクは十分にあるのではないか、と考える。


  1. 銀行の不良債権最終処理に対する目処が立たず、銀行不信が大きく高まること。――今月末頃に公表が予定されている金融庁のガイドラインがさほど前向きのものとはならず、最終処理が9月期にかけて大きく増加する可能性は低い、との見方が出てきている。ただ、少なくとも間接償却による銀行の赤字決算が9月期には支配的になるとみられ、銀行の不良債権処理に対する見方が大きく後退することはなさそうである。この条件はクリアーされないのではないか。

  2. 株価低迷が継続し、景況感の大幅な下振れが生じること。――銀行不信が大きく高まることはない一方で、銀行のバランスシート調整が緩やかであることに対する失望感が株安の継続を招く惧れは十分にある。政治不信とあいまって海外からの株式市場への資金流入も大きく回復しないのではないか。しかし、TOPIXが1000ポイントを切るようなことにならない限り、金融不安再発の可能性は低い。心配されるのは、金融不安は再発しないが、オールドエコノミーの大企業を巻き込んだ信用不安や連鎖倒産の発生は否定し得ない。むしろ、株価低迷の下での銀行の融資選別姿勢強化が大規模倒産を発生させる可能性はある。夏場にかけての景況感の大幅後退といった条件は満足される可能性が十分にある。

  3. 日銀の流動性供給が何らの景気回復ももたらさない。――株価の低迷持続、不良債権最終処理の遅れから、銀行の金融仲介機能が回復せず、ゼロ金利下での流動性増大も「無駄金」となる可能性が高い。日銀が大幅な量的緩和に踏み込めば踏み込むほど、信用乗数は低下し、短期市場における円流動性はアイドル・バランス化する。日銀の流動性供給が景況感を支える力は弱いとみられる。この条件も満足されるものとみられる。

  4. 輸出の一段の落ち込みが見えてくること。――98年中の輸出数量の伸びは前年比で−1.3%であったが、これはとくに年後半に対米向けに大きく減速したこと(年後半は−4%超える減少)が背景である。01年については、通年で0%の伸びを想定しており、輸出減速のマグニチュードでは決して98年にひけをとらない。しかし、輸出の落ち込みが顕著なのは年前半とみており、年央以降は徐々に輸出の回復感が出てくる可能性が高い。輸出減速のピークが上記(2)でみた国内景況感悪化のピークと重なる可能性は低いが、この条件もかなりの程度、クリアーされていると言って良いであろう。

以 上  
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