2001年04月05日

白川 浩道
「株式買取り機構創設」は筋の悪い政策
  • 銀行保有株式取得機構の創設が与党・政府の緊急経済対策の目玉となっている。ただ、機構創設時期については、与党と政府の間に見解の相違があるようだ。関連法案の提出時期について、与党サイドは今国会中、政府サイドは秋の臨時国会、との立場を維持しており、折り合いが付いていないものとみられる。政府サイドから、安易なPKOとも受け取れる同機構の設置に消極的な意見が出ており、これが、機構創設のネックになりつつある。参院選後の政治情勢が不透明であることからすれば、関連法案が今国会中に提出されなかった場合には、取得機構の設立そのものが白紙に戻る可能性を否定できず、不透明感が高まった。

  • 設立そのものが危うくなってきたが、そもそも同機構の設立については、どのように評価すべきであろうか。わかり切ったことではあるが、同機構の設立の第1次的な効果は、銀行の持ち合い株解消による市場の需給悪化圧力を緩和することである。逆に言えば、市場の需給改善以外の効果が見込めるわけではない。

  • 銀行にとってみれば、機構が時価で株式を取得する以上、税制面でよほどの優遇措置がなされなければ、市場で売却することと変わりはない(税制上の優遇措置が講じられれば、銀行に対する補助金と受け取られ、新たな銀行批判を招く可能性があり、実現可能性にはやや疑問が残る)。ここで、同機構のファンディングは結局のところ銀行がつけてやることになるが、それが付加的な収益を生むわけではない。政府が3分の1を出資といっても、結局は、銀行がその分、国債を買うことになる。また、社債での資金調達も銀行がその多くを購入する形になる可能性があるが、これも政府保証付きである。要するに銀行は、株式を放出して、それを国債・政府保証債に交換することになるが、これは市場で株を売却して国債投資を行うことと何ら変わらない。

  • 機構設置の問題の本質は、所得の強制的な移転が生じることである。銀行が機構に売却する株式を自主的に選択できるとすれば、銀行は、不良債権の処理原資を確保したい以上、相対的に値上がり益を期待できそうにない株式から順次売却するインセンティブを持つはずである。相対的に売却損の出やすい株が売却される可能性が高い。銀行が放出する株が質の悪いものである以上、機構が、将来市場に売却する際には2次ロスが出る可能性が極めて高い。3年後に日本経済が2%以上の成長に復している保証などない。2次ロスが生じた場合、それを納税者に負担させることになろうが、これは、納税者に「値下がり株」を押し付けるようなものである。要は、納税者から銀行や企業に所得を移転するだけのことである。預金金利が下がり切ったため、預金者から銀行への所得移転を金利政策でこれ以上奨励することは難しい。そうした状態を穴埋めするものである。

  • 株式買取機構の設置は、非常に筋の悪いアイデアといわざるを得ない。家計は、低金利に加え、更なる支出(税負担)を強いられることになる。日本の家計は合理的である。国の財政や金融システムの破綻の可能性が高まるのをみながら、貯蓄・消費行動を調整している。株式取得機構の設立の話を聞いただけで、家計貯蓄率がすぐに上昇するわけではないが、家計が支出意欲を高めることはない。景気を支援する効果がない以上、株式運用者が、需給の改善だけを当てこんで、本措置をプラスに評価することには問題がある。今後、本措置がどのような展開をみせるかは政治情勢によるところが大きいが、筋の悪さを認識している政府サイドから良識ある反対が出ることを期待したい。

以 上  
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