2001年04月16日

白川 浩道
財政再建ムード後退と市場
自民党総裁選に絡んで、経済政策、とりわけ財政政策に関する議論が活発化している。亀井氏から提示されている、景気対策としての減税措置や補正予算組成については、与党内の見解が一枚岩ではないことや、政治日程がタイトであるなどの技術的側面を考えれば、早期の実現可能性は極めて低い。また、夏の参院選で現与党が勝利する可能性が低いことを考えれば、秋以降も安易な景気対策としての財政出動が行われる可能性は現状では高くない、と評価される。

このように、追加的な財政出動の可能性は、依然として、やや中期的にみても、高くない。しかし、むしろ重要なポイントは、財政政策の中期的な構造改革が先送りされるという問題である。財政構造改革の必要性を主張する現野党であっても、今年の厳しい経済情勢を前提とすれば、財政引締めの議論を前面に押し出せるほどの勇気はないのではないか。政治が、銀行の不良債権最終処理の必要性を声高に叫べば叫ぶほど、本格的な財政再建を打ち出しにくくなることは事実であろう。銀行には税金を投入してでも健全化を図る一方、中小企業や家計からは増税や大幅な歳出削減を通して所得を搾取するといった考えが、広く国民に受け入れられる可能性は低いとみられる。政権のフレームワークにかかわらず、財政再建ムードが後退する可能性は否定できない。

財政構造改革、財政再建のムードが後退することは、債券相場にとって、1つの重要なベア材料となる。とりわけ、昨年大きく日本債を買い越した海外投資家にとっては、財政再建ムードの後退を嫌ってくる可能性が高い。ここでの発想は、財政再建の後退、長い目でみた財政破綻リスクの上昇、金融政策による本格的リフレ策導入の必要性上昇、円相場の中期的下落のリスク増大、といったルートから、日本債購入に慎重となるというものである(当社では、10年国債の利回り見通しを昨日上昇修正した<6月末0.8%→1.2%>)。要するに、海外投資家は円の下落に対して神経質な状態が続くことになるものとみられる。

さて、外人投資家が日本債にベアなスタンスとなることで、これまで想定していた以上に、日本の長期金利には上昇圧力がかかりやすい展開となることが想定される。ここでの問題は、長期債相場の低迷が継続した場合、次第に金融システムへの影響を無視できなくなるということである。10年債利回りが1.6−1.7%に迫るようなことがあれば、債券含み損といった議論が活発化する可能性がある。構造改革の進展がないことを材料に株価の本格的な反転がみられていないとすれば、株価の不安定な動きの下で債券安が生じるといった、金融機関にはまさに強い逆風が吹く可能性がある。

こうした状況では、政策の議論は、公的資本注入だけではなく、金融システム・サポートを目的とした一段の金融緩和実施に傾いてくる可能性が高い。そして、一段の金融緩和実施が仮に行われた場合(当座預金ターゲットの6、7兆円への上方修正)、日銀によるリフレ的な財政サポートのイメージがより色濃く出ることになることは不可避であり、この場合には、円安が進行する可能性を否定できない。そしてその円安がさらに債券安をもたらすといった悪循環に入る可能性が高い。

しかし、こうした状況で、株安までが引き起こされるかどうかと言えば、答えはノーではないか。なぜなら、リフレ的な政策運営へのシフトが名目経済変数である株価を支えることになる可能性が高いからである。確かに財政構造改革や産業構造改革に対するコンフィデンスが高まらなければ、外人投資家による腰の入った日本買いが短期間のうちに起こる可能性は低い。しかし、日銀による更なる流動性供給が円安期待を高めれば、円キャリートレードを通じて、流動性が欧米市場に供給されることになる。これが、日本以外の株価を支えることになる可能性があり、そうした効果はいずれ日本にフィードバックされてくる可能性が高い。株価は秋口から来年にかけて、上昇基調をたどる可能性が高い。

また、日銀による一段の緩和措置がきっかけとなって、債券相場が新たな均衡点に移動すれば(10年債利回りで2.0%前後)、そうした市場環境が財政構造改善を促すとともに、ひいては、財政支出に支えられてきたオールドエコノミー企業に対する退出圧力となる可能性もある。株式市場がモラルハザードを起こさず、流動性増大による株価上昇が勝ち組企業にのみに顕現化する状況となれば、インフレ的な政策が構造調整を進める結果となるのである。デフレ的政策による構造調整ではなく、インフレ的な政策による構造調整といったルートもあり得るのである。この点は重要である。そして、構造調整の進展に対する見方が前進すれば、日本株はその面から次第にサポートされていくことにもなる。秋口にかけては、円安、債券安といったショックが生じる可能性があるが、その後は、株価の反転といったプラスの市場環境がもたらされる可能性があることを指摘しておきたい。

以 上  
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next