2001年05月02日

白川 浩道
小泉政権の経済政策運営に対するとりあえずの評価

小泉政権は各紙世論調査での支持率が軒並み80%を超えるなど、歴史的な高支持を得ている。派閥政治脱却、自民党改革を中心に据えた政治改革断行といったイメージが好感されているほか、「構造改革なくして成長なし」といった経済政策運営の基本指針が広い支持を集めていることが背景にあることは明らかである。

それでは、小泉政権の経済政策運営について、どのように評価すべきであろうか。以下では、銀行の不良債権処理、財政再建、金融・為替政策運営といった3つの観点からとりあえずの評価をしてみたい。

まず、不良債権処理である。これまでの情報からすれば、与党の緊急経済対策で示された主要行の13兆円の不良債権を向こう2、3年のうちに処理するといった基本方針をそのまま踏襲することになるようである。ここでのポイントは2つある。1つは、対象とする不良債権を破綻・危険債権といった一部不良債権のみとし、要注意債権以下のグレー債権には引き続き踏み込まないのかどうかといった点である。金融庁の最近の発表では、主要行の問題債権は40兆円強に及ぶとされており、仮に13兆円のみを対象とした場合、問題債権のわずか30%しか対象にならないことになる。仮に13兆円を3年で処理するとした場合、年4兆円程度のペースで処理されることになり、これは毎年10%のペースで問題債権が処理されるに過ぎない。問題債権が今後拡大しないにしてもこのペースでは不良債権処理に10年かかる計算である。銀行への公的資本注入は不要かもしれないが、依然、漸進主義的アプローチの域を大きく出ないと評価される。もう1つのポイントは債権放棄に対して新政権がどのような態度で臨むかである。債権放棄の指針が甘いものとなれば、不良債権処理手段として債権放棄が濫用される可能性がある。これでは、借り手企業の整理淘汰は十分には進まないことになる。問題債権のより大きな範囲を対象とし、法的整理を不良債権処理の中心に据えるようなことになれば、かなり大胆な構造改革と言えようが、仮に、13兆円のみを対象とし、債権放棄が主体となるようでは、マクロ的にみて産業再編・経済構造改革が大きく進むとは言えない。現状では、後者の可能性が依然高いようにみられる。

財政再建はどうか。小泉政権の目玉は、新発国債の発行上限を30兆円とするといった提案である。この案に関しては、2点ほど重要な論点がある。1つ目は、30兆円といった上限を維持することは容易ではないということである。01年度こそ当初予算ベースの発行額が28兆円強であるから、クリアーできる可能性が高いが、02年度からは達成はかなり困難といわざるを得ない。財務省の財政中期展望によれば02年度の歳出総額は87兆円と見込まれるが、税収が伸び悩めば、02年度の国債発行は37兆円にまで膨らむ可能性があるからである。小泉首相は消費税増税を標榜しておらず、7兆円は歳出の切り込みで行うことが基本方針となろう。しかし、これは容易ではない。公共事業の3割カット、地方交付税の2割カットといった措置が必要となる。30兆円の上限を02年度に達成しようと思えば、こうした歳出削減が必要になるのであって、こうした措置が本当に実現可能か、現状ではやや疑問視せざるを得ない。第2のポイントは、実は30兆円といった国債発行目標も、中期的な観点からみれば、財政再建にとって「焼け石に水」の感がある。なぜなら、30兆円の国債発行では、国のプライマリーバランス赤字は10兆円程度残り、解消しないからである。成長率の中期的な回復が展望できない状況では、財政破綻を防ぐには、プライマリーバランスの黒字化が必要である。これは、国債発行を20兆円未満、少なくとも15兆円程度に抑えなくてはならない。いずれにせよ、30兆円ターゲットでは財政破綻のリスクは大きくは低下しない。やはり「歳出切り込みと同時に、増税やむなし」の議論が出てきてこそ、真の財政構造改革路線と評価されるのではないか。

金融・為替政策については、現状、小泉政権から目立った発言はみられない。現状、金融政策に注文をつけるところはないといったイメージである。構造改革を標榜する限り、安易な量的緩和や円安誘導のイメージは出しにくいとの見方もできるが、気になるのは、構造改革推進によるデフレ圧力を一段の流動性拡大で緩和するといった政策の方向性が見えないことである。経済・財政構造改革と金融緩和は本来セットで議論されるべき筋合いにあるが、ここでの議論が見えないことは、構造改革に対するコミットそのものが中途半端な可能性があり、気がかりである。

さて、上記をまとめれば、小泉政権の経済政策については、「依然として、不良債権処理、財政構造改革に大きく踏み込んだものとは言えない可能性が高い」、と評価される。しかし、そうした評価はやや厳しすぎるかもしれない。目線を下げれば、より前向きな評価も可能かもしれない。明らかなことは、小泉政権は、その方向性として「構造改革推進」を打ち出していることであり、依然その程度は十分ではなくとも、過去の政権に比べて、相対的には日本の中期的な経済成長を高める方向に導く可能性が高いことは、まぎれもない事実だからである。「絶対的には評価できないが、相対的には評価できる」と言えよう。

今後、個人的には、財政再建論議はあまり進展しないとみているものの、不良債権処理については、法的整理による借り手企業淘汰論が出てくる余地もあるとみており、雇用対策、規制緩和の議論と合わせて注目していきたいと考えている。不良債権処理の議論が進展すれば、「絶対的にも」新政権を評価できることになるからである。

以 上  
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