2001年05月07日

白川 浩道
小泉政権の構造改革を評価する4つの物差し

構造改革の断行を宣言した小泉政権に対する投資家の期待は大きい。先週の「焦点」でも指摘したとおり、確かに小泉政権は、森政権や小渕政権に比べれば、構造改革の重要性を素直に認めているという点で評価に値する。しかし、それはあくまで相対的な評価であって、絶対的にみて、その構造改革政策を評価できる段階にはないと考えている。

そもそも構造改革といった場合、そのポイントは何か。改めて言うまでもないことであるが、金融資源と人的資源の最適な配分を妨げ、日本経済の中長期的な経済成長率の回復を遅らせている構造的な問題を取り除くこと、である。これは、すなわち、家計部門が供給する貯蓄(金融資源)と労働を、より生産性の高い産業に再配分することである。そして、そのためには、繰り返しになるが、銀行の不良債権処理と生産性の低い政府部門の縮小化が構造改革の最大のテーマとなる。

こうした点を念頭に置いて、現政権が構造改革に「真に」前向きであるかを評価する際の物差しを以下に示しておきたい。これらの物差し、あるいは条件がクリアーされるようなことがあれば、現政権は本当の意味で構造改革を進める内閣と評価できよう。逆に言えば、これらがクリアーされない限り、現政権の政策を絶対的な意味で評価することはできない。

まず、第1は、公的資本注入の断行、である。大手行ベースでみた場合、問題債権の額は40兆円強に上っており、これは自己査定でみた2分類以下の合計にほぼ等しい額である。不良債権問題に決着をつけたいと考えれば、基本的には、少なくともこの40兆円強という額を最終処理の対象とすべきであり、その場合には、銀行の収益力からして、公的資本注入は避けられまい。これまでのところ、柳沢大臣は、金融システミック・リスクが生じる可能性はないとの理由から、公的資本注入の必要性を否定している。しかし、こうした政策スタンスは再び不良債権処理の遅れといった失敗を繰り返す可能性があることを示唆している。公的資本注入は極めて重要な条件である。

第2には、雇用保険充実化などのセイフティ・ネットの整備、である。大規模な不良債権処理の過程で債権放棄を安易に適用することは許されない。不採算企業が淘汰されてこそ、産業構造改革が進む。不良債権処理の過程では、法的整理が主体となるべきであり、短期的には、倒産、失業率の大幅な増加、上昇が容認される必要がある。そうした企業部門再編を視野に入れる限り、政府がまずなすべきことは、中長期的に雇用創出プランを考えることではなく、失業の増加による社会不安の除去である。100万人規模の失業者に失業手当をランプサムで払うことなどを具体的に議論すべきである。そうであるとすれば、数兆円のオーダーで財政資金が要る。逆に言えば、数兆円オーダーでの失業給付が政策対応の俎上に上ってくれば、現政権は産業構造改革に前向きと言えよう。

第3には、増税の実行、である。国債発行額を年度30兆円以下に抑えることは、容易ではないうえ、長い目でみれば十分な財政構造改革措置でもない。さらに、産業構造改革に前向きになれば、短期的には、公的資本注入やセイフティネットに係る新たな財政資金が必要になることは明らかである。公共事業の大幅削減に加えて、増税がなんとしても必要であろう。小泉首相は、「消費税増税を議論すべき時ではない」、とコメントしている。こうした財政に対する甘いスタンスが変わらない限り、構造改革は進まないのではないか。

第4には、一段の金融緩和の実施、である。銀行の不良債権処理加速による産業再編、公共事業削減、増税による財政構造改革、といった2つの改革ルートは、いずれもデフレ的である。真に痛みを伴う構造改革を遂行しようというのであれば、金融政策の一段の緩和が必要なはずであり、経済政策課題として、「日銀に一段の量的緩和を求める」との議論を展開するのが筋ではないか。現状、現政権から一段の金融緩和を求める声はない。このことは、現政権で構造改革の議論が十分に具体性を持って進められていないことの証左ではないか。一段の金融緩和の実施を求める声が出てきてこそ、真の意味で構造改革に前向きと言えるのではないかと考える。一段の金融緩和も構造改革イニシアティブの真剣度合いを計る重要な物差しである。

要は、現政権から、公的資本注入の断行、雇用セイフティネットの充実化、増税の実施、一段の量的金融緩和の必要性、といった4つの条件に関する議論が出てきて初めて、「構造改革政権」との評価が可能となる。それまでは、あくまで「依然、実体を伴わない政権」と評価せざるを得ない。見極めには、今しばらく時間がかかる。

以 上  
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