2001年06月05日

白川 浩道
生産調整は年内に終了?

 先週、先々週と欧州の顧客投資家を回ってきた。構造改革の断行を宣言した小泉政権に対する海外投資家の関心は高い。銀行の不良債権問題に対する取り組み、財政健全化に対するコミットメントが、彼らの2大関心事項であった。ただ、その一方で、小泉政権の構造改革が日本経済、金融市場(特に株式市場)に与える影響についての定まった見方はなかった。これは、構造改革は中長期的には日本経済のボトルネックである超過供給状態を解消し、デフレ圧力を緩和するとともに、資源のより効率的な配分を通じて潜在成長率の回復にも貢献するものの、痛みを伴う構造改革が実行されれば、日本経済は短期的には明らかにデフレ圧力を受ける、との考え方が支配的であることに背景がある。すなわち、市場のプレイヤーとして、経済構造改革の中長期的なベネフィットと短期的なコストのいずれを重視すればよいのか、判断がつきかねるといったのが、欧州投資家の正直なところであったように窺われる。構造改革の短期的な効果と中長期的な効果を、より明確に分けて議論する必要があることを痛感させられた欧州投資家訪問であった。

 さて、構造改革問題の経済成長率、金融市場への効果を容易には見通し難い状態にあること、7月の参院選までは政治的な配慮からドラスティックな改革案は出にくいのではないかとみられること、を背景に、海外投資家の日本株投資スタンスは、当面の間、在庫(生産)調整圧力の大きさ、もう一段の金融緩和の有無、をどうみるかによって大きな影響を受ける可能性が高い。在庫調整圧力が大きくなく、日銀による更なる流動性供給があれば、株価が少なくとも循環的にみて回復局面入りするとのシナリオを描きやすいことになるからである。逆に、在庫調整圧力が大きいうえに、日銀が技術的な問題や国債買い切りオペ増額への躊躇から一段の流動性供給を見送るような場合には、株価の下値不安はなかなか消えないことになる。

 それでは、在庫調整圧力、あるいは生産調整圧力をどのように考えておくべきであろうか。当然のことであるが、在庫調整、生産調整の深さと長さを議論する上では、まず需要面を予測することが重要である。今回の生産調整局面については、IT関連を中心とした世界需要の減退が引き金になっているだけに、まずは、米国やアジア景気の回復時期を読むことが不可欠となる。当社では、これまで米国におけるU字型の回復を予測してきたが、この点については、これまでのFEDによる金融緩和、そして減税政策の効果を見込んでいることから、変更しておらず、来年の米国の実質成長率は3%に復するとみている。またアジア経済も今年は5%程度に減速の後、来年には6%台前半の成長に戻るとみている。こうした世界経済の見通しを前提とすれば、需要面については、内需に新たなデフレショック――たとえば不良債権処理の大幅な加速等により企業倒産が著しく増大する、など――が生じない限り、年末には、緩やかながらボトムアウトする兆しが見えている可能性があると言えよう。

 そこで重要となるのは、仮に需要面が年内にボトムアウトするとして、それがすぐに生産活動の回復につながるかどうか、である。この点については、在庫循環を読むことが極めて重要である。在庫の意図せざる積み上がりが生じていれば、需要面が緩やかに回復しただけでは生産調整の終了がもたらされず、景気回復が後ずれする可能性があるからである。他方、在庫の積み上がりがみられていなければ、生産も需要の下げ止まりとともに緩やかに回復する可能性が高い。当社では、(1)これまでのところ、在庫の意図せざる積み上がりは生産財(原材料、中間材)に集中しており、消費材、投資材といった最終需要材では在庫の積み上がりはみられていない、(2)生産財の生産調整は98−99年の前回調整局面と同程度の深さとなる可能性が高く、従って、来年半ばまで生産の回復は望みにくい、(3)他方、最終需要材の生産調整は前回調整局面に比べて、短期かつ軽微なものとなる可能性が高く、年内には生産調整局面が終了する可能性が高い、(4)この結果、マクロでみた生産調整も年明けまでには完了している公算が強い、との見方をしている。

 このように考えると、今後のポイントは、市場がいつ頃から来年の生産回復を織り込んでいくか、である。当社では、遅くとも秋口には市場が来年の生産回復を織り込みはじめるものとみている。そうしたタイミングで金融政策の一段の緩和が実施されれば、供給された流動性は株価を支える方向で作用する可能性が高い。株式市場にとっての正念場は夏場までと言えるのではないか。

以 上  
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