2001年06月25日

白川 浩道
骨太の構造改革案についての評価

 経済財政諮問会議に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(案)が提出され、明日26日に閣議決定される運びとなった。同案には抽象的な記述が多く、具体性が大きく欠けている。ボトムラインは、現構造改革案にはみるべき点が少ない、ということである。構造改革への意気込みはあっても、内容は希薄である。

ポイントは以下のとおり。

  1. 小泉政権は、前政権までの日本的グラデュアリズム(漸進主義)の域を出ていない。
  2. 不良債権問題の早期解決に対する期待が高まることはなかろう。
  3. 短期的なデフレ深刻化の可能性は高くないが、一方で産業構造調整の進展も望めない。
  4. ムーディーズによる日本国債の再格下げの可能性は短期的にはやや遠のいたとみられるものの、年明けには実施にされる可能性が引き続き高い。
  5. 日本経済の趨勢的な潜在成長率低下に歯止めはかからない。金融政策には今後少なくとも5年程度、緩和圧力が継続しよう。

1)財政構造改革

 14年度の国債新規発行額30兆円以下への抑制が確認された。ここでの最大のポイントは30兆円の達成はほぼ不可能だ、ということである。財務省は案内のとおり、今年度以降、名目成長率+2%という極めて非現実的な前提の下に税収見通しを立てている。竹中大臣が指摘するとおり、仮に実質ゼロ成長となれば、今年度、来年度ともに名目−1.5%成長といったイメージになる。そうなれば、来年度税収の減額修正はそれなりの規模となることが予想される。この結果、30兆円の新発債ターゲットを達成するためには、借換え債の発行額を操作しない限り、5-6兆円規模の歳出カットを必要とする可能性が極めて高い。小泉政権はこの景気の現状で5-6兆円規模の歳出削減をどうやって達成する考えであろうか。道路特定財源の見直し、地方交付税の見直し、特殊法人改革と、威勢はいいが、6兆円もの歳出削減をできる可能性は限りなくゼロに近い。逆に、無理やりに30兆円を達成しようとすれば、地方景気の大幅悪化は避けられない。来年4月のペイオフ解禁を控え、地方景気に打撃を与えれば、地方金融機関発の信用不安を引き起こす可能性は十分にある。そうしたリスクを考えれば、30兆円のターゲット達成は先送りされる可能性が高いとみられる。小泉首相は30兆円のターゲットは達成できない、と白旗を揚げることになろう。

 財政構造改革のもう1つの目玉はプライマリーバランスの達成への意欲である。国債新規発行額30兆円を達成した後、プライマリーバランスの黒字化を目指すとしている。しかし、極めて明らかなことであるが、自らが認めているように、「今後2-3年は低成長」であれば、プライマリーバランスの黒字化達成のためには、増税と社会保障改革に関する議論を早急に具体化する必要がある。そして、増税を実行した場合にはそのデフレ的なインパクトをさらに考慮せざるを得ないことも忘れてはならない。景気への負のインパクトを最小限とする税制のあり方をより具体的に示すとともに、抜本的な社会保障制度改革にも取り組まねばならない。この点、骨太改革案はあまりにレベルが低い。社会保障制度改革については、「中略…世代間の給付と負担の均衡を図り、相互に支えあう、将来にわたり持続可能な安心できる社会保障制度の再構築が求められている」とされているのみである。また、税制については、「所得、消費、資産等の適切な課税ベースの選択、できるだけ広い課税ベースの確保、政策目的に対して有効な政策手段であるかの検証等、幅広く税制を不断に見直していくことが不可欠である」としているに過ぎず、極めて抽象的である。本改革案をもってプライマリーバランス達成へ一歩踏み出したとは到底いえない。

2)不良債権問題

 緊急経済対策から大きな進歩はない。主要行の破綻懸念先以下の債権について2-3年以内に最終処理を進めるという方針に何ら変化はなく、要注意先債権についての記述は何もなかった(少なくとも間接償却の促進が必要との議論がなされる可能性はあったが)。最終処理が困難であった債権をRCCに引き受けさせ、信託方式で処理を進めるといったアイデアのみ新規に加わったが、RCCの機能を強化したからといって、これだけで銀行不良債権のオフバラ化が緊急経済対策で想定した以上に進展するとみるわけには行かない。RCCの処理能力は未知数であるし、また、銀行が要注意先債権をRCCに積極的に持ち込むとは考えにくいからである。今回の案でも銀行の不良債権問題解決に関するブレイクスルーは見出せなかったといえる。このように、市場では、銀行の不良債権問題の早期解決に対する期待が高まる可能性は低いとみられる。そして、このことは3つのことを意味する。すなわち、

  1. 日本の金融システムに関する不信感はなかなか後退しない
  2. 産業構造改革の進展による潜在成長率回復期待も生じない
  3. ただしその一方で、企業倒産の大幅増加によるデフレ・ショック発生の可能性は小さい
ということである。

 なお、不良債権処理問題に踏み込めなかったため、雇用面でのセイフティネットの議論については、規制緩和により新規サービス分野等で5年間に500万人強の雇用創出が可能、といった極めて夢物語的な記述が不自然に残ったのみである。

3)民営化、制度改革

 特殊法人等の見直しや郵貯改革の具体的な検討が指摘された。国や郵貯資金による特殊法人、政府系金融機関等への資金の流れを変えることが可能になれば、株式市場の活性化、民間金融部門の収益力回復といった効果から、経済成長にはプラスであろう。ただ、骨太案では、この点に関する具体性に乏しく、極めてパンチ力の弱いものとなっていることが残念である。財投制度と政府系金融機関の完全廃止などを具体的なスケジュールを持って示すことが求められる。

4)銀行保有株式買取機構

 金融システムへの不安感が払拭されないのは、需給悪化による株価下落リスク、具体的には持ち合い解消売りによる株価下落リスクが根底に存在していることも大きく影響している。市場メカニズムに逆行するという意味で筋のいいアイデアはないが、景気の脆弱性からすれば、銀行株式買取機構の創設は認めざるを得ない面がある。しかし、本改革案では、「一時的な仕組みとして、銀行保有株式買取機構の設立に向け早急に検討を進めなければならない」との記述がなされたに止まった。緊急経済対策からは後退したといわざるを得ない。金融庁は2次ロスの負担に関し、銀行界と合意でき次第、早い段階で関連法案の作成にめどをつけたいと考えているようであるが、依然、政府保証のあり方やロス負担のあり方に関し、政治的に揉める可能性は十分にある。株価の下値不安は当面解消されない可能性が高い。

5)金融政策運営について

 今回の改革案は、それが即、更なる金融緩和を求めるものとはなっていない。「金融政策については、調整期間におけるデフレ圧力の状況も踏まえ、機動的な量的緩和政策をとることが期待される」とされ、構造改革との関係でみた場合、更なる金融緩和策については、今後2-3年を展望した措置であることが明記されたのである。しかし、このことは更なる金融緩和が短期的には起こらないことを意味するものではない。短期的には、

  1. 米国経済年後半回復期待の後退による株価下押しとそうした株価下落を受けた金融・信用システム不安の再燃
  2. 流通等における大企業倒産をトリガーとした株価下落と金融・信用システム不安の再燃
の2つの可能性があり、このいずれの場合にも、日銀が更なる緩和を実施する可能性が大きくなる。当社では、引き続き、8月中旬の日銀金融政策決定会合で、当座預金ターゲット増額の可能性が高いとみている。

 小泉改革は依然、日本的グラデュアリズムの域を出ていない。あるいは、日本経済の厳しい現状を前提とすれば、その域を出られないという方が適当かもしれない。いずれにせよ、産業構造改革が大きく進展する萌芽はなく、財政再建の目処が立つ状況にもない。実質長期金利が緩やかに上昇する下で成長率の中期的な低下が継続しよう。金融政策には、緩和基調を強めるべきとのプレッシャーがかかることはあっても、その逆が生じることは当面ないであろう。向こう少なくとも5年間は金融緩和が継続すると考える。

以 上  
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