2001年07月05日

白川 浩道
労働市場のリストラ耐久力は限定的?

 景気は、短期的には製造業を中心に下降局面に入ることから、不良債権の抜本的な処理や本格的な財政緊縮化を行うことは、当面の間、政治的に極めて困難であろう。しかし、小泉政権が安定すれば、高い人気の下で経済構造改革のモメンタムが強まる可能性がある。ここでの最大の関心事項は、政府がハードランディング型の改革を目指した場合、労働市場に大きなショックが入る可能性である。果たして、労働市場は、経済構造改革のインパクトを吸収するだけの余力、耐久力があるのであろうか。

 残念ながら、答えはノーであるといわざるを得ない。経済構造の変革の中で新たに職を失った労働者がスムースに再雇用される可能性は低いのである。最大の問題点は、日本の労働市場がバブル崩壊後10年も経ているのにもかかわらず、いまだに十分な流動性を持っていないことである。確かに最近は転職ブームだと言われる。労働統計をみても、労働者の入離職率が緩やかにではあるが、ここ数年上昇トレンドにあり、特に若年層を中心に職業を変えることへの意識が変わっているのは事実である。また、パートタイマーの比率も、小売業等で大きく高まっており、その分、労働市場の流動性は高まっているともいえる。しかし、残念ながら、依然として一般労働者の産業間の労働移動は十分に起こっているとは言い難い。

 マクロ的には、2つの指標に注目したい。1つは業種別の労働生産性格差であり、もう1つは、業種別の賃金格差である。90年以降のいわゆる失われた10年間に日本経済で起こった特徴的な現象の中に「二極化」がある。その典型的な例が労働生産性の二極化である。運輸・通信業はこの10年間に労働生産性を何と60%も改善させた。飛躍的な伸びである。一方、建設業はこの10年間に労働生産性を何と30%も悪化させた。この2つの業種の開きは驚くべきものである。日本経済に市場メカニズムが働くのであれば、この10年間に起こっていなければならないことは何か。それは、建設業の雇用縮小と賃金下落である。しかし、またまた驚くことに建設業の雇用は縮小もしていないし、賃金も低下していない。何とこの10年間に、運輸・通信業に勤務する者の平均給与と建設業に勤務する者の平均給与の差は縮まっているのである。

 日本の雇用市場にはいかに市場メカニズムが働いていないか、よくわかる。これでは、労働者がより良い仕事を求めて産業間を移動するインセンティブは限られており、実際、転職を経験してきた労働者も少ないはずである。こうした労働者がハードランディング型のリストラに耐えられる可能性は低い。政府は、規制緩和によって新規のサービス業を興し、雇用の受け皿を用意する考えにあるようだが、事態は容易には進展しまい。構造改革のペースを慎重に検討する必要がありそうだ。

以 上  
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