2001年07月10日

白川 浩道
当社の金融政策基本シナリオ

ポイント1:景気対策としての追加的緩和の可能性はゼロに等しい。

 日本企業の多くは、米国景気が下期には徐々に持ち直すこと、そうした状況で為替相場が円安基調で推移すること、を標準シナリオとしている可能性が高い。したがって、米国経済の下期回復シナリオが崩れ、為替相場が円高方向にトレンドを変化させれば、年後半の景況感は相当下振れる可能性がある。そうしたダウンサイド・リスクはあるが、それでもなお重要なことは、6月短観の基本メッセージが、(1)今回の景気後退局面は比較的短期間のうちに終息し、(2)景気後退の深さも98年の前回の局面に比べて浅い可能性が高い、ということである。当社では、短観を重視する日銀が、景気対策としての追加的緩和に踏み切る可能性はゼロに等しい、と考えている。

ポイント2:追加的緩和は、基本的には、金融不安、信用不安の発生の場合に限られる。

 循環的景気後退が相対的に短く、浅いものとなる可能性が高くても、日銀が追加的な緩和措置の実施に踏み切る可能性がないわけではない。それは、基本的には、金融不安、信用不安の発生をきっかけとしたものになるものと考えられる。年度下期の景気回復が徐々に市場に織り込まれるのは10-12月の半ば頃とみており、このため、株式市場にとっての厳しい環境は9-10月までは続くことになる。こうした市場環境の下で、9月期には、時価会計の本格導入を迎える。株価の低迷が持続していれば、金融機関のバランスシート悪化懸念が一気に表面化する可能性が極めて高い。特に不良債権処理を一段と進展させなくてはならないものの、株価低迷の下でそうしたことが困難な金融機関は市場から厳しい評価を受け、場合によっては市場からの退出を迫られることになる可能性を否定できない。そこに、大企業倒産が発生した場合、引当不足懸念等から、金融システム不安、信用不安があおられる可能性が高い。日銀にとっては、金融不安と株安の負の連鎖を絶つべく、金融機関の第2線準備である当座預金の供給額を増加させることになろう。当社では、8月会合ないし9月会合で当座預金ターゲットの1兆円増額が行われるものとみている(確率60-70%)。なお、この場合、中長期国債買い切りオペは、月額7000-8000億円へ増額されることになろう。

ポイント3:政府の構造改革支援としてのCPIプラス1%へのコミットメントが行われる可能性が高い。

 当座預金量の増額は、金融システミック・リスクの上昇に対する対応であり、それ以下でもそれ以上でもない。一部には、政府の構造改革が進展すれば、それに伴うデフレ圧力に対抗して日銀が量的緩和を拡大するとの見方があるが、これは正確な見方ではない。正確には、「構造改革の進展によるデフレ圧力によって金融システムへの不安が高まれば、日銀がこれに対抗する」ということである。その意味では、構造改革が例えば地方景気の大幅悪化とそれに伴う地方金融機関の経営不安の拡大といった状況をもたらさない限り、構造改革が追加的な量的緩和に結びつく可能性は極めて低い。むしろ構造改革が日銀の政策運営に与える影響という点では、「時間軸効果」の方がはるかに重要であると考えられる。すなわち、構造改革の緩やかな進展の下でのデフレ圧力の継続に対して、日銀として、「ゼロ金利政策へのコミット」で対応するという発想である。「構造改革道半ばでゼロ金利政策解除」となってしまっては、経済へのデフレインパクトが大きくなり過ぎる。政府が、財政健全化等の構造改革に目処を付けられるまでは、「ゼロ金利政策の継続を約束する」ということである。構造改革に向こう2年で目処をつけられる可能性は低い。向こう3-4年はかかるとの発想になれば、CPIが少なくともプラス1%になるまではゼロ金利を継続する(暗にゼロ金利政策を3-4年は継続する)と表明することになろう。なお、CPIプラス1%へのコミットメントは、このように構造改革への対応措置としての色彩を強くもつとみられることから、その決定がなされるのは、秋の臨時国会開催後の可能性が高く、9-11月となろう(当社の当初の基本シナリオに比べ幾分後ずれする)。

ポイント4:企業金融支援としてのCP・社債オペ積極化の可能性がある。

 企業倒産が、大規模のものだけではなく、中堅・中小企業を含めて大きく増加する可能性があるのは、来年3月期とみられる。金融機関の不良債権の最終処理が進むのは3月期であるとみられるからである。生産調整は年内には目処が立ち、年明け1-2月からは徐々に景気に明るさが戻ってくるものとみられるが、1-3月期までは景気の足腰は依然として弱いものとみられる。倒産の拡大によって、景況感が一時的に大きく後退する可能性は否定できない。日銀とすれば、こうした状態で、当座預金のターゲットは拡大しなくとも、企業金融支援のイメージをより鮮明に打ち出す可能性がある。具体的にはCP・社債オペの積極化(適格担保要件の緩和)が実施されるものとみている。なお、この場合、中長期国債買い切りオペは、月額7000-8000億円から、4000億円へ再び減額されることになろう。

 以上をまとめると、(1)8-9月の決定会合で当座預金ターゲットの1兆円の増額、(2)9-11月にCPIプラス1%へのコミットメント、(3)2-3月にCP、社債オペの積極化、というのが今後の金融政策の基本シナリオとなる。ただ、仮に8-9月期に生じる金融不安の程度が小さく、むしろ3月期に、ペイオフ解禁もあって、より本格的な金融不安が生じるといったシナリオを想定した場合には、8-9月期はロンバート貸出金利(公定歩合)の10-15ベーシスの引き下げ、2-3月期に当座預金ターゲットの1兆円の増額、となる可能性が大きい。

 さて、上記の金融政策の基本シナリオについて、その金融市場への影響を考えてみよう。まず、当座預金ターゲットの増額は、「金融システミック・リスクの軽減」と「国債需給改善」といった効果を持つ。株価には若干のプラス、債券相場にはニュートラルとみている。次にCPIプラス1%へのコミットメントは、「ゼロ金利長期化期待の高まり」がその効果である。株価には若干のプラス、債券相場にとっては、中期ゾーンでプラスとみている。最後に、CP、社債オペの積極化は、「企業の信用リスク低下」、「国債需給悪化」といった効果を持つ。株価にはプラス、債券相場にはマイナス、である。

 さて、これに、当社の景気循環等に関する見方を加えた、株価、債券相場の基本シナリオは以下のとおりとなる(長期金利見通しは大きく変更していない)。なお、秋の補正予算は2兆円程度となる可能性が高いとみているが、その程度の規模に止まれば、市場にはほぼニュートラルであろう。

 株価は今後しばらく低迷の後、日銀の当座預金増額を受けて、9月末までには落ち着きを取り戻すものとみられる。その後、10-11月頃からゼロ金利長期化期待、景気調整局面終息期待を受けて緩やかな上昇局面入り。3月期にかけ一旦神経質な展開になろうが、4月以降は上昇がより力強いものに。

 債券相場は9月中下旬までに10年債で1.0%を試す展開に。5年債は0.2%割れをトライする可能性が高い。CPIプラス1%へのコミットメントが9月末までに打ち出されれば、5年債は9月半ばまでに0.1%近傍まで低下する可能性がある(9月末までに打ち出されない場合は、0.2%小幅割れが限界か)。10-11月以降は、株価の上昇局面入りに加え、財政構造改革への期待低下(14年度新発債発行額30兆円達成期待の低下)から、年末には10年債で1.4%程度まで上昇(5年債は0.2%強で越年)。年明け後は、株価の緩やかな上昇基調が続く中で、ムーディーズの再格下げ(1-2月?)の影響もあり、2月末頃には1.6%台へ。ほぼそのままの水準で年度末を越えた後、4-5月には1.7-1.8%を窺う展開になるものと予想。

以 上  
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