2001年07月24日

白川 浩道
小泉政権が打ち出すべき政策

 外国人投資家は5月の中旬以降、日本株に対する投資姿勢を消極化させている。財務省の「対内外証券投資の状況」によれば、6月中の対内株式投資はネットで3700億円程度の処分超となったが、その後7月に入ってからも小幅の処分超が続いている。なぜ、外国人の日本株に対する見方が後ろ向きになったのであろうか。外国人は、日本的漸進主義の下での着実な構造改革と、日銀によるデフレ対抗へのより強いコミットメント(具体的にはプラス1−2%のCPI上昇率へのコミットメント)に期待している。そうした観点からすれば、外国人の日本株に対する期待感の後退は、「漸進主義的ながら着実に進む構造改革」への不信感と、日銀の政策スタンス不変といった現象に対する失望感がその要因ということになる。

 このうち、構造改革への不信感といった点に関して、少し考えてみよう。骨太の構造改革案は、筆者が予想していた以上に、外国人投資家の評判が芳しくない。「抽象的であることに加え、個別のアイデアを単に総花的に散りばめただけ」、「構造改革における軸足がはっきりしない」、「タイム・スケジュールが具体的に示されているものがほとんどなく、実現可能性の評価ができない」といった批判が多いのである。こうした批判に応えるべく、小泉政権は、構造改革政策のプライオリティ付け、および具体化を、参院選挙後早急に前進させる必要がある。さもなければ、外国人による日本株離れは一気に加速する可能性がある。外国人が日本を見限れば、株価は大きく下がることになる。構造改革によってデフレが生じる前に経済破綻が生じてしまうのでは元も子もない。外国人投資家の日本に対するコンフィデンスを高めることは現政権の至上命題である。

 こうした視点に立った場合、参院選後に政府が打ち出すべきことは何であろうか。個人的には、まず決定的に重要なことは、不良債権処理の促進であると考えている。それも、オフバラ化の議論ではなく、要注意先に対する審査の厳格化とそれを受けた強制的な引当ての積み増しが必要であると考えている。海外投資家は、日本の銀行が、問題のある貸出債権を正常貸出に近い債権に分類し適切な資本保全策を講じていない、とみている。銀行に対する不信感は残念ながら極めて根強い。こうした不信感を払拭できない限り、外人の日本株投資への安心感は絶対に生まれない。骨太の構造改革案で最も物足りなかったのは、銀行の不良債権処理に関する部分であったことは、多くの投資家が指摘するところである。小泉政権は、過去のしがらみにとらわれることなく、新鮮な目で銀行の資本増強に取り組むべきである。

 第2には、行政改革の中心的課題として公的金融機関の徹底的見直しを行い、その統廃合スケジュールを早期に打ち出すことである。民間金融機関の抱える問題点は、足元の過少資本状態に加え、中期的な収益性の低迷である。公的金融機関との過当競争状態を是正することに政府が強くコミットすれば、金融システムに対する不安も後退する。これは、不良債権処理の促進と同程度に重要である。なお、この点に関して、骨太の構造改革案には、「連鎖倒産防止の目的で政府系金融機関貸付を活用する」といった旧態依然とした中小企業対策が明記されており、政策のちぐはぐさが浮き彫りになっている。政府として、政府系金融機関の位置付けを選挙後早急に明確にしなくてはならない。

 第3には、30兆円といった新発国債発行額の上限達成について、より具体的な議論を展開すべきである。財務大臣が、ただ繰り返し「30兆円の発行上限を達成する」とだけ訴えても、達成可能性、およびその景気へのインパクトを推し量ることができない。市場では、税収算出の基礎になっている経済見通しが非現実的であることはほぼ100%コンセンサスになっている。政府は、たとえば01年度の名目成長率予想をマイナス1.5%程度とするなど、経済見通しをより現実性のあるものに修正するとともに、そうした見通しに基づいた税収見通し、歳出見通しを速やかに公表すべきである。それも、02年度予算の編成といった通常の手続きに入る前に行うことが必要である。市場は、小泉政権が来年度について、どの程度、公共事業費や地方交付税を削減しようとしているのか、その具体的な数字を欲している。改革の意欲ではなく、数字そのものが重要である。外国人投資家は、現実性を重んじる。改革案が非現実的なアイデアの寄せ集めであると受け取れば、結局、日本不信を強めるだけである。何も30兆円を達成できなければ、外国人がそっぽを向くわけではない。政権に改革を推し進める具体的シナリオがあるかどうかが重要なのである。

 その意味では、第4に、机上の空論のような議論を並べることは何のプラスにもならない。実現可能性の低い事柄をさも達成可能なように議論することは政策担当者のクレディビリティが疑われることになる。ただスローガンめいたことを表明することは意味がないばかりか、逆効果なのである。その最たるものとして、2つ指摘したい。1つは530万人の雇用創出である。骨太改革案では、「試算によれば、新規分野を含むサービス分野においては5年間で530万人の雇用機会が創出される」とされている。これをみた外国人の通常の反応は、「これは現在の総失業者数を上回る規模であり、これが本当であれば、日本経済は何の問題もなく立ち直る」というものである。しかし、多くの投資家は試算の前提も過程もみせられていない。まさに机上の空論と受け取っている。2つ目は、プライマリーバランスの達成である。骨太改革案では、「プライマリーバランスを黒字にすることが適切である」とされている。多くの投資家はそんなことを改めていわれなくとも既に十分理解している。彼らの関心は、「極めて大変な作業になることが明らかなプライマリーバランスの黒字化を、税制や年金制度の見直しの下で如何に達成するか」である。そうした議論を十分にできないのであれば、そもそもプライマリーバランスの議論など打ち出す意味はない。

 小泉政権の構造改革に向けた意気込みは評価されるべきであり、外国人投資家も多くの人は「小泉首相は歴代の首相とは異なる」と好意的である。しかし、真に彼らの評価を高めるためには、メリハリの効いた改革案、プライオリティのある改革案を示すことが必要である。総花的な改革を叫ぶことは無駄な行為である。不良債権処理の間接償却促進を軸にした、集中型構造改革を期待する。

以 上  
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