2001年09月11日

白川 浩道
闇雲な追加金融緩和はトリプル安を招く?

 日銀が先月の金融政策決定会合で追加緩和に踏み切ったにもかかわらず、株価は低迷を続けている。来週の日銀会合に向けて、政府サイドからは、更なる緩和を望む声が強まって来よう。8月の緩和措置はデフレ対策としては不十分であるとの認識である。しかし、こうした認識は2つの面で大きな間違いを犯している。第一には、当座預金ターゲットの拡大といった緩和政策のみで株価を上昇させたり、景気を拡大させることは不可能であり、金融政策に対する過度な期待があるということである。第二には、仮に、日銀が、一部の政治家が望むような節度のない大幅緩和に踏み切ったとしたら、日本経済にとってはマイナス・インパクトの方が大きく出る可能性が高いということである。

 インフレやデフレは貨幣的な現象であり、日銀がマネタリーベースを増加させれば、デフレ懸念が止まり、支出行動が刺激されるとともに、株価も上昇するとみる考え方がある。しかし、現在、日本が直面している物価下落はかなり構造的なものであり、議論はそう簡単ではない。製造業生産拠点の継続的な海外シフトや本来淘汰されるべき不採算企業の延命といった構造的な供給過剰状態の継続が、物価下落の根底にある。別の言い方をすれば、こうした構造的な供給過剰状態を是正することができない限り、そう簡単にデフレ懸念を払拭することはできないし、株価も上昇しまい。不良債権の抜本的な処理や歳出構造の見直しによる産業構造改革があってこそ、はじめて長いトンネルの出口が見えるはずである。

 問題は、一部政治家に、日本経済に真に必要な構造改革に十分に手をつけずに、とにかく大胆な金融緩和を求める傾向があることである。これは、日本経済にとって最悪のシナリオをもたらす可能性がある。日銀が生産性の向上に繋がるような構造改革の道筋が見えない状態で節度のない緩和に踏み切れば、何が起こるであろうか。最も可能性が高いのは、円、国債価格、株価のトリプル安とスタグフレーションである。生産性の向上が見えない限り、日本株に投資を増やす外人はいない。また節度のない量的緩和は節度のない財政運営への懸念を高めることになり、国債への投資も減少しよう。円は安くなろうが、これが、景気を刺激する保証はない。輸入インフレの進行がむしろ実質可処分所得の減少期待を通じで、消費行動を抑制することになりかねないからである。

 日銀による大胆な緩和は、不良債権の徹底処理、産業構造改革の進展を前提にすべきであり、政府や民間銀行が動かないのに日銀がこれ以上動くことは誤りである。小泉政権は闇雲に日銀に圧力をかけるのではなく、構造改革の具体的な筋道を早急につけるべきである。さもなければ、日本経済の再生はなく、株価の回復もない。

以 上  
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