2001年10月11日

白川 浩道
インフレ・ターゲティングについて
  1.  日銀の一部審議委員の「インフレ・ターゲティング導入」に関する発言が一段と踏み込んだものとなってきた。既に金融政策決定会合の場でインフレ・ターゲット導入を提唱している同委員は、政府が単独で目標インフレ率を設定する可能性までも示唆した。

  2.  インフレ・ターゲットを採用している国々では、その国の事情によって、政府がターゲットを設定するケース(英国)、中央銀行が設定するケース(スウェーデン等)、政府と中央銀行が共同で設定するケース(ニュージーランド、カナダ等)、中央銀行と協議の上で政府が設定するケース(イスラエル等)がある。今回、同審議委員から提案され、また一部内閣府が同調する傾向を示している方式は、英国方式である。すなわち、政府が年1回インフレの目標値を設定し、中央銀行はこの目標値を達成するための金融政策運営の決定権限を与えられるということである。

  3.  さて、ここで問題としなくてはならないのは、インフレ目標値を定める政府とは具体的にどこか、ということである。諸外国の例をみれば明らかなように、これは財政政策運営を担当する財務省である。国の財政政策運営にとってインフレは極めて重要な変数であるからだ。具体的には、年度の予算編成と同時に、インフレ目標値の承認も国会で受けるというのが妥当なフレームワークであろう。

  4.  すなわち、インフレ・ターゲットの正式導入に当たっては、日銀がスウエーデンやチリのように単独で設定しない限り、財務省との協調が不可欠である。あるいは、仮に単独で設定するにせよ、インフレ・ターゲットの導入が国債利回りに影響を与える可能性が極めて高い以上、財務省との意見調整はかなり深いものとならざるを得ない。

  5.  当社では、一部審議委員の発言が、財務省との意見調整を経たものではないと考えており、その意味で、日銀によるインフレ・ターゲット導入を一気に進ませるものではないと考えている。8月の金融政策決定会合における財務省出席者の発言をみると、「中略…長期国債の買入れの増額や時間軸の強化等を含め…」とのくだりがある。財務省は、依然として、日銀による国債PKOを要望しているのである。長期国債相場を崩さない金融緩和を継続して欲しいということである。そうしたスタンスの財務省が、国債相場を崩しかねないインフレ・ターゲット導入、特にプラスのCPIにコミットするようなインフレ・ターゲット導入に対して簡単に首を縦に振るであろうか。当社ではそうは思わない。

  6.  財務省と日銀のアンチ・インフレ・ターゲット導入派は、同じところをみていると考えて良いのではないか。今後は、内閣府、一部審議委員、一部政治家のインフレ・ターゲット積極派と、アンチ・ターゲット派との間で、議論の火花が散ることになろう。いずれにせよ、議論が簡単に終息することはなかろう。(政治的な風圧が大きく高まることを防ぐ観点から)「2年程度を目処にCPIコア前年比が0%となることを目指す」といったような、中途半端なコメントが日銀から出る可能性も全くないとは言えないが、この場合には、現状の緩和スタンスを大きく前進させることにはならない可能性が高く、市場への影響も小さいとみられる。これは、逆に言えば、アンチ・ターゲット派が、市場への影響が小さくなるような形で先に動き、積極派の動きを鈍らせる戦略と位置付けておくべきであろう。「小幅のプラスのCPI上昇率をターゲットとする、諸外国で採用されているようなインフレ・ターゲット」が導入される可能性は、依然としてかなり低いものとみておいて良いだろう。

  7.  以下は、9月18日の前回金融政策決定会合前日の9月17日に行われた財務省武藤事務次官の記者会見要旨の一部抜粋である。極めて重要な発言であるので、掲載した。

    (質問)
     日銀の決定会合を前に、昨日ですか、竹中大臣が日銀における独立性についての議論をまた展開されて、政策の独立と手段の独立、目的の独立と言っていましたか、その二つの問題があるということで、その議論をしたいと。あるいは、物価の目標について、これは政府が決めて、ある程度日銀と整合的に政策を実行していくということを提唱したいようなことをおっしゃっています。これについて、次官のお考えはどうですか。

    (回答)
     竹中大臣のお考えというのは、どういうものであるかは、私も直接伺っておりませんし、また現時点で多くを語られているわけでもないと思うので、正直なところよくわかりません。インフレターゲッティングを取り入れるべきではないかという議論は、これはもう前からあって、それに対しては慎重論も一方であると。私どもは、それに対していいとか悪いとか直ちに申し上げるのはいかがかと思っておりますけれども、これだけの日銀の努力の中で、当面物価上昇がゼロあるいはプラスになるまで緩和政策を続けるといったああいう方針というものがもちろんインフレターゲッティングそのものではないわけですけれども、それなりに一つのそういうものに対する考え方をあらわしておるというふうに思っておりますので、金融緩和政策をさらに努力するべきだというのは、我々基本的に考え方は一致している、同じだと思っております。けれども、もうちょっとインフレターゲッティング採用論は、これは中央銀行自身も含めて、まだまだ議論されていくのではないかと。直ちにそういう結論みたいなことには当面なかなかならないのではないかなというふうに思っております。
以 上  
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next