2001年10月18日

白川 浩道
市場のディシプリンは効くか

  1.  日本政府の危機意識は依然として低い。日本経済が抱えている問題は、企業、政府のバランスシート調整圧力を背景にした需要曲線のシフトと、趨勢的な生産性の低下等に伴う供給曲線のシフトといった複合的な不況であり、これに対応するためには、財政政策の質の向上や緩やかな為替減価等による需要刺激と、不良債権処理の加速等を通じた産業構造改革の同時並行的な実行が急務であろう。しかし、今後半年程度を展望しても、需要刺激策、産業構造改革政策のいずれの面においても、日本政府から意味のある施策が打ち出される可能性は極めて低い。

  2.  こうした状況で日本経済再生の大きな鍵を握るのは、市場のディシプリンである。日本経済が、73−74年の石油ショック時にも迫るような「生産ショック」を受けるとみられる中で、有効なマクロ経済政策が打ち出されないとすれば、市場はついに反乱を起し、企業経営やガバナンスの根本的な変更を迫る可能性がある。すなわち、現政権下での経済政策の無策は、それが結果として市場の浄化作用を強化する、といったプラス面をもたらす可能性がある。

  3.  そうした観点に立った場合、注目されるのは、対内外証券投資の動きである。金融緩和によるサポートと構造改革の進展に対する期待が高まった「年初から5月まで」と、金融緩和期待が一段落するとともに構造改革の進展に対する信認が低下した「6月から9月」では、証券投資のフローは様変わりとなっている。すなわち、ネットでみた資金の流出入は、1−5月が「3兆円程度の流入超」であるのに対し、「6−9月」は逆に「4兆円強の流出超」となっている。6月以降、海外からの資金流入が完全に止まる中で、債券市場を中心に対外資金流出が着実に進行しているのである(対内証券投資は、株式・債券市場合計でみた場合、1−5月には、株式を中心に5兆円弱の資金流入となったが、6−9月では、ネットでほぼトントン。他方、対外証券投資は、債券投資を中心に、1−5月には、2兆円弱の資金流出となったが、6−9月では、5兆円弱の流出に拡大)。

  4.  今後、このような内外資金の動きが加速すれば、株価、債券価格、為替相場のトリプル安が生じ、これが市場の浄化作用を強める可能性がある。特に98年にみられたような資金流出圧力がみられれば、日本経済が本格的なリストラ圧力を受けるチャンスが出てくるであろう。こうした内外資金の動きをもたらすきっかけは何であろうか。基本的には、大型企業倒産の発生等による金融・信用不安の再燃が最も蓋然性の高いものである。逆に言えば、金融・信用不安が再燃すれば、市場の浄化作用が強まる可能性が高いのである。

  5.  しかし、実際には、大型企業倒産の発生は十分にあり得る一方で、金融・信用不安が高まる可能性は低い。それは、政府・日銀がセイフティネットを用意しているからに他ならない。公的資本注入や預金者保護のスキーム、金融システムに対するジャブジャブの資金供給、さらには厚めの企業手元資金(特に中小企業)と、依然、リスクを抑え込む各種の措置がある。市場の反乱が日本企業のコーポレート・ガバナンスを変化させ、日本経済の中長期的な再生に貢献できる日はまだ先のことであろう。

以 上  
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