2001年12月10日

白川 浩道
青木建設倒産によって政府は安易な企業金融支援に?

 銀行への公的資本注入に関する議論が再び注目を集めている。自民党の一部が、不良債権の査定厳格化とのセットでの公的資本注入の議論が蒸し返しているからである。不良債権の査定をより厳しくし、自己資本が不足した先に資本注入する、というのは「前向きの資本注入」であり、外国人投資家が最も好むシナリオである。しかし、現実問題として、こうした「前向きの資本注入」を行える可能性は低い。現行の法的な枠組みの下では、「金融不安が生じ、預金取り付けが生じたような場合に預金保険の危機対応勘定からの資本注入が可能」とされている。逆に言えば、政府は金融システム不安を自ら宣言しない限り、資本注入は行えない。要は「後ろ向きの資本注入」が基本なのである。政府が不良債権の査定を厳格することで銀行の自己資本を縮小させ、自ら金融システム不安を宣言する可能性は極めて低い。一種の自己矛盾であるからだ。また、金融システム危機を宣言することは、かなり大きなマイナスのアナウンスメント効果を伴うものとみられ、結果的に本当に金融危機を招いてしまうリスクもある。政府は、優良な金融機関が政府の宣言によって不良な金融機関に転落するリスクを懸念するであろう。結局、現行の枠組みでの公的資本注入は、取り付けが実際に起こった後で行われる「事後処理」のケースしかない。市場は「前向きの資本注入」を欲するものとみられるが、このためには法律の改正、コンセプトの大きな変更が必要であり、実現性は低い。

 青木建設が民事再生法を申請した。銀行の会計処理に基づいた制御された企業倒産とも言える。今後、年度末にかけて、銀行主導による企業倒産が増加する公算が高い。このことは、景況感の大幅な悪化と信用市場の一段の縮小が生じる可能性が高いということである。問題は、企業の連鎖的な倒産が生じる事態になったとしても、株価の長期低迷の下で体力が低下している国内金融システムには、そうした企業金融の閉塞状態を救うだけのリスク・テーク能力はないということである。つまり、下手をすると、信用リスク・プレミアムの爆発といった事態を招きかねないのである。こうした状況で、公的当局は、信用市場の縮小によるデフレ圧力の拡大を回避せざるを得なくなり、結局、何らかの形で信用リスクを請け負うことになるのである。

 考え方としては、銀行に対する資本注入を行うか、企業信用市場に直接的に介入するか(倒産の拡大を防止する)、あるいは不良債権企業を買い取るか(とりあえず倒産をさせてから再生を手当てする)の3つの方策を挙げることができる。ここで、銀行への資本注入については、上記で論じたように、現行の法的枠組みの下では使えないオプションである。従って、現実問題として、政府のオプションは、政府系金融機関や日銀による「企業金融支援」か、RCCを中心にした「企業再生メカニズム強化」のいずれかしかないことになる。1-3月期の経済政策はこのいずれかの方向に進むことになるものとみられるが、「企業再生メカニズム強化」は制度的な枠組み作りにより大きな労力を要する。結局、政府は、安易な形での「企業金融支援」に軸足を置くことになるであろう。まさに98年の金融危機時と似た対応となるということである。政府の介入は不採算企業を温存し、経済の活性化を妨げる側面を持つ。しかし、介入を行わなければ、信用リスクの拡大を抑え込むことができず、経済はデフレ・スパイラルに突入してしまう。モラル・ハザードのコストとデフレ・スパイラルのコストを比較した場合、当局はやはり後者のコストを重視することになるのである。

以 上  
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