2002年04月11日

白川 浩道
海外投資家は日本株投資に依然慎重

3月下旬から約2週間、20数社の米国・カナダ機関投資家を訪問した。意見交換の過程等で得られた、北米機関投資家の対日投資スタンスや日本経済・ 政策運営に関する関心事等をまとめると次のようになる。ポイントは、少なくとも北米の機関投資家は日本株投資に依然として慎重ということである。

  1. 日本経済も、世界的な在庫調整の進展や米国経済の回復の下で、再び輸出主導型の緩やかな回復局面に入る可能性が高いのではないか、と期待 する投資家が多いのは事実。しかし、その一方で、日本経済にはバランスシート不況という構造的な足かせが残っており、自律的な需要回復力が極めて 弱いことから、米国経済や世界経済の回復にダウンサイドの圧力が生じれば、いとも簡単に景気の腰折れが生じるのではないか、との不安感を持つ投資 家が多い。

  2. 上記の点に関して印象的であったのは、米国投資家が、米国経済の回復力に関して予想外に慎重な見方をしていたことである。すなわち、「短期的に は、在庫のre-stockingによって生産活動の下げ止まりがみられる可能性が高いほか、低金利政策によって自動車販売等耐久財消費は底固く推移しよう が、米国経済の順調な回復が生じるというシナリオには数々のダウンサイド・リスクがある」といった慎重論を唱える機関投資家が、結果的にはかなり多か った。ここで言う、ダウンサイド・リスクについては、4月4日付けのWSJ紙がその1面で、4つの要素を指摘しているが、これら4つの要素は、一般投資家の間 でも「米国経済の潜在成長率復帰を妨げる可能性のあるもの」として注目されていると言えよう。4つの要素とは、企業設備投資の低迷持続、原油価格の 上昇、住宅価格の下落、金融政策に対するコンフィデンスの低下(グリーンスパン議長の早期離任?)、である。これらのうち、とりわけ、中東情勢の悪化 による原油価格上昇、および住宅価格に加え商業用不動産も含めた不動産市場の低迷を、ダウンサイド・リスクをもたらす最大の要因とみる投資家が多 かった。

  3. 日本の構造改革政策については、ほとんどの北米投資家は、「昨年後半よりもさらに冷めた見方」をするようになっており、残念ながら、日本政府に対 する不信感は一段と強まっていると評価せざるを得ない。特に、政府による露骨な株価対策(空売り規制の強化と公的資金によるPKO)、不良債権処理の 進展の遅さ、中長期的な財政構造改革論議の欠如、が投資家の「政策不信」を決定的なものにしている。さらに、うんざりするほどの政治スキャンダルと、 そうした政治スキャンダルの処理に十分リーダーシップを発揮できない小泉首相に対しては、既に「この首相にも何も期待できない」と諦め顔をする投資家 が圧倒的に多かった。

  4. 不良債権処理問題については、引続き多くの投資家が、大手過剰債務企業の不良債権が主として第2分類に分類されていることに対して強い不満を 持っていた。処理額の増加傾向についても、むしろ循環的な景気悪化や、地価・不動産価格の下落による後ろ向きの負担増の結果、とみている向きが大 勢であった。大手企業であっても過剰債務企業、業況不振企業であれば、躊躇なく法的整理に追い込む、といった目に見える形での不良債権処理積極化 が日本政府・金融界から打ち出せない限り、「産業構造改革が進展しているとは到底言い難い」と考える投資家が多かった。

  5. 日本経済の再生には、産業構造改革、財政構造改革といった「サプライ・サイドの変革」が重要であると考える投資家が相対的に多く、需要刺激策の 必要性については、あくまで「サプライ・サイドの変革に伴うデフレ圧力の緩和」と位置付ける向きが多かった。こうした供給重視の姿勢については、そもそ も日本の金融財政政策は既に需要刺激的な効果を発揮できない可能性が高い、日本における景気長期低迷の主因は需要不足ではなく、経済の供給面 での構造調整に手間取っていること、との見方が背景になっていると言えよう。北米投資家は、欧州投資家に比べて、需要重視派が多いとみられただけに 、供給重視派の投資派が予想外に多いとの印象であった。このことは、構造改革政策の後退が、北米投資家の日本への投資スタンスを予想以上に慎重 化させる可能性が高いことを意味している。

  6. このように供給サイド重視派の機関投資家は、短期的な景気重視の減税策に否定的なスタンスを示す傾向が強かった。「社会保障制度等の抜本的な 見直しの下で小さな政府にコミットし、活力ある経済社会を目指す」といった中長期的な財政構造改革の重要性を主張したが、これに賛同する声が多かっ た。このように財政政策については、供給面に軸足を置くことを期待する投資家が多数派であり、与党から示された第2次デフレ対策は「期待に沿うもので はない」との評価が多かった。

  7. 金融政策に関しては、インフレ・ターゲットの導入による一段の金融緩和(日銀による非正統的な政策の実施=株式市場への直接的な介入)が必要に なろうとの見解を示す投資家が多かったが、その一方で、日銀による株式市場への直接的な介入等、一歩進んだリフレ策は、産業構造改革に逆行する可 能性が高いという意味で「必ずしも最善の政策ではない」との見方もかなりみられた。繰り返しになるが、供給重視派が意外に多かったのである。

  8. 以上まとめれば、「ごく短期的には、公的資金PKOによって、また夏場まで待てば循環的な景気回復期待、から日本の株価も緩やかに上昇する可能 性が高いが、日本経済の循環的な回復力にはダウンサイド・リスクがあるほか、経済構造改革はむしろ後退していることから、株価が持続的に上昇する蓋 然性は低い」というのが、北米投資家の平均的な見方ということになる。このように、海外投資家の目は依然として極めて厳しく、個人的な印象では、世界 経済の循環的な回復がみえてきても、投資家の多くは「アンダーウェイトを継続する可能性が高い」というものであった。株価の持続的な上昇はまだ見え そうにない。
以 上  
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