2002年04月19日

白川 浩道
日銀に「様子見」はまだ早い

米国の3月の鉱工業生産は市場のコンセンサス(+0.5%)比強めの+0.7%となった。ハイテク関連の生産が1.4%の増加となり、全体を押し上げたのである。また、製造業の稼働率は75.4%と前月比+0.5%上昇した。しかし、こうした高い生産の伸び率は持続可能ではない。最終需要、とりわけ企業設備投資の回復が年後半になるとみられるからである。設備稼働率は、3月は75.4%に上昇したが、設備投資が回復感を鮮明にするのは稼働率の80%超え(既往平均81.9%)が必要である。IT関連の設備投資が徐々に明るさを増す可能性はあるが、従来型の設備投資は今しばらく調整局面を経験する可能性が高い。

実際、米国当局者の景気に対する見方は依然として慎重である。17日に議会証言を行った米FRBのグリーンスパン議長は、インフレのリスクは極めて限定的であるとの見方を示した一方で、大方の予想どおり、最終需要のダウンサイド・リスクを強調した。同議長のコメントで重要なものを抜粋すれば、次のようになる。「個人消費が加速することはないだろう」、「最近のエネルギー価格の上昇は家計・企業の支出行動を阻害するであろう」、「株価下落による逆資産効果は継続する可能性がある」、「債務負担の増加は低所得層の支出を圧迫しよう」、「企業の設備投資は通信業の過剰投資のツケから、緩やかにしか回復しないであろう」。

このように米国の金融政策当局は、景気の回復に対する見方が慎重であり、仮に、利上げが行われるにせよ、それは、11月か12月にたった0.25%といったところであろう。要するに年内は、米国でも低金利政策が維持されるのである。第1四半期から3%を超える成長が達成されるとみられている米国ですら、そうなのである。日本の当局とすれば、政策を「様子見」とすることすら、まだ早い。日銀は、株価が少しでも安定化してくれば、「流動性を追加的に供給する理由はない」と判断する可能性が高い。日銀は、これまでの量的緩和を、株価の危機的な下落やそれに伴う金融システミック・リスクの回避、といった後ろ向きの政策と位置付けているからである。しかし、こうした考え方は、明らかに誤りであろう。日銀に課されている宿題は、株価の10,000円割れを防ぐことではなく、資産デフレを食い止めCPIを少なくとも前年比ゼロまで持っていくことである。仮に日銀に株価の目標があるとすれば、それは10,000円をキープすることではなく、20,000円程度を目指すことではないか(東証時価総額を2倍以上にしない限り、資産デフレは止まらない)。日銀は、これから、一押しも二押しもしなくてはならないはずである。週末のG7会合は、世界的な生産回復の下で、各国中銀・財務省が、「様子見を決め込む」会合となろう。そんな中で、日本政府への風当たりも低下する可能性が高い。株価がこのまま11,000円台以上をキープすれば、日銀は徐々に流動性供給を絞ろうとするであろう。しかし、日銀による追加的な流動性サポートが切れれば、株式・債券両市場が崩れる可能性がある。日本経済にとっての最大のダウンサイド・リスクは、日銀による金融調節スタンスの早すぎる中立化であろう。

以 上  
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next