2002年06月03日

白川 浩道
ムーディーズ格下げでも市場はトリプル高?

面子にこだわったムーディーズは日本国債の2ノッチ格下げ(A2へ)に動いた。格下げ見送りとすれば、日本政府の批判に屈したことになる。また、1ノッチでアウトルックをネガティブとすれば、今後、日本の景気が、循環的にせよ上向いた場合に格下げに動きにくくなるため、レピュテーション・リスクがある。1ノッチ、ステーブルとすると、市場が2ノッチの格下げを織り込んでいただけに、むしろポジティブ・サプライズとなりかねない。結局、2ノッチでステーブルにしておけば、面子を維持でき、レピュテーション・リスクもなく、市場にポジティブ・サプライズを与えることもない。今回の格下げは、そうした意味で、客観性に乏しいものであるといわざるを得ない。

シングルA格への格下げによって、海外投資家の新規の日本国債投資が幾分縮小する可能性は否定できない。しかし、そうした影響を市場が既に織り込みであったとすれば、今回の格下げが単独で長期金利の上昇を招くことはないであろう。また、ここ数年の日本国債格下げは、日本の財政事情の悪化を後追い的に評価しているだけのことであって、格下げそのものに大きな意味はない。理論的に考えれば、日本国債格下げは、「日本の公的債務残高のGDP比率が長期的にみて収束する確率がさらに低下したこと」を、格付けといった、1つの約束事で示したに過ぎない。かつ、国債市場ではそうした財政事情の悪化は既に十分に価格に反映されていると考えられる。01年度の名目GDP成長率はマイナス2.5%近傍にあるというのに、10年債利回りは1.4%といった水準にある。名目成長率との格差でみて4%ポイントというのは歴史的ピークである。債券市場は財政事情の悪化を既にかなり意識していると言えるであろう。

このように、今回の措置は、客観性に乏しく、かつその市場への直接的な影響もかなり限定的であると考えられるが、別の観点からは大いに注目すべきである。別の観点とは、「引き締め的な財政政策運営と一段の金融緩和」といった政策ミックスが採用される蓋然性がさらに高まったこと、である。財務省からすれば、今回の格下げによって財政引締めを行い易くなった、と評価される。格下げの妥当性に疑問を提示する一方で、格下げそのものを財政健全化路線の材料として利用することになるであろう。そして、その裏では、一段の金融緩和と不良債権処理の継続が、デフレ経済(名目成長率上昇マイナス経済)からの脱却を担う経済政策の中心に据えられることになるであろう。政府は、ムーディーズの「デフォルトを回避するための適切な政策は、名目GDP成長率を高めるための積極的な金融緩和策から、富裕税の導入まで」といったフレーズを見逃すことはないだろう。

このように、今回の国債格下げによって、一段の「財政緊縮・金融緩和」といったマクロ政策の方向性が見えてくれば、市場のベクトルは、トリプル高であろう。米ドルが中長期的な調整過程に入っているとの認識からすれば、円高傾向がそう簡単に反転することはないであろう。金融政策は、日本の中長期的な成長率を復活させるといった目標に加え、円高から来るデフレ圧力を緩和するといった、責務を追う。さらにもう一段踏み込んだ緩和が必要なのである。そして、それは、国債買い切りオペの大幅な増額しかない。財政政策が引き締め気味の運営となる下で国債買い切りオペの大幅な増額が行われれば、国債価格は(成長率との関係でみて相対的に)上昇するであろう。

財政破綻による国債の暴落を信じる人は、日銀のインフレ政策によって国債価格が上昇することを予想しなくては整合的ではないだろう。国債価格が上昇し、実質金利が低下すれば、株価は上昇する。債券高と株高は同時に生じる可能性が高いのである。そして、こうした資産価格の上昇がバランスシート調整圧力の低下をもたらすとすれば、財政破綻の確率は低下し、これがさらに債券高、株高を招くといった、好循環が生じるであろう。こうした状況で円が大きく売られる理由はない。結果として、トリプル高が生じるであろう。ムーディーズの格下げが債券安、株安、円安になる蓋然性はかなり低いのである。

以 上  
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