2002年07月25日

白川 浩道
海外投資家は日本に小さな政府を望む?

最近、英国を中心に欧州投資家を訪問したが、彼らは、米国株や欧州株に比べて、日本株を相対的に「選好する」姿勢にあった。投資家のそうした姿勢の根拠となっているのは、以下の2点とみられる。

  • 日本は、株価バブルの崩壊を10年以上昔に経験しており、企業会計や証券会社の不正行為といったバブルの副産物については、既にある程度経験済みである。換言すれば、日本からこの手のネガティブ・サプライズが出る可能性は相対的に低い。

  • アジア景気は依然好調であり、日本経済はそのメリットを相対的に最も強く受ける可能性が高い。この点に関して言えば、最近の円高は確かに輸出企業の収益を悪化させるが、円高=アジア諸国の生産拡大=日本からアジアへの輸出増加、といったメカニズムが働けば、日本の輸出はある程度の伸び率を維持できるはずである。

こうした状況下、海外投資家にとって、足元の最大の関心事は日本の財政政策の行方である。淡々とした財政健全化なのか、あるいは、景気刺激型への財政政策の転換が起こるのか、を見極めたいとする投資家が多い。ただ、日本の財政政策に対する投資家の考え方は、以下に示すように、大きく2つに分かれており、決め手を欠いている。すなわち、財政政策運営については、単なる積極化、あるいは健全化、のいずれが採用されても、日本株に大きく資金が流入することはなさそうである。

  • 円高がデフレを深刻化させるとすれば、日本政府は積極的な財政政策によって需要をサポートすべきではないか。公共投資を含め、積極的な財政政策が実施されない限り、日本株のダウンサイド・リスクは消えないのではないか。

  • 安易な財政拡張政策は、むしろ日本経済の中期的な展望をより悪化させるのではないか。一時的に需要が創造されても、それが持続的な効果をもつ保証はないのではないか。積極財政が実施され、財政健全化が再び棚上げされた場合には、日本株に対する中期的な投資妙味が低下する可能性すらある。

しかし、上記の点は、次のようなインプリケーションを持つ。すなわち、政府が、「景気に配慮する一方で、財政構造改革の流れを維持する」ような財政政策運営を実施した場合には、上記のいずれの考え方を持つ海外投資家も、それなりに、日本株投資に前向きになる可能性がある、ということである。このことは、経済諮問会議で民間委員が主張する「無駄な歳出の削減による減税措置」が実施された場合には、日本株に対するアップサイド・リスクが生じる可能性があることを意味している。

株価にアップサイド・リスクを生じさせるような「無駄な歳出の削減を財源とした減税措置」(=小さな政府へ向けた措置)が実施される可能性はあるのだろうか。まず、減税に関しては、財務省事務方の抵抗感が強い。株価の一段の下押しや景気腰折れ懸念が大きく高まらない限り、減税論議はなかなか前に進まない可能性が高い。日経平均が10,000円を維持すれば、財務省は実質増税路線を堅持しよう。他方で、減税を実施するとして、その財源を歳出の削減に求めることに対しては、守旧派の抵抗が強いであろう。従って、「歳出削減と減税のセット」については、依然として実現性はあまり高くないと読むべきであろう。ただ、100%諦める必要はない。キーを握るのは、経済財政諮問会議の政治力であり、特に塩川財務相の政治力である。同大臣が、守旧派の減税論を逆手にとって、世論における歳出見直し論議を巻き起こすことは不可能ではない。財政政策における今後の最大の焦点は、歳出削減の対象項目と削減可能規模となる可能性がある。そして、その帰趨が財政政策の方向性を決めることになろう。

日本が仮に「小さな政府」を目指していくことになるとすれば、これは、国際投資家にとって極めて興味深い現象になる。なぜなら、先進国の潮流は逆を向いているからである。欧米諸国では、市場絶対主義の下でのグローバライゼーションがITバブルの生成と崩壊をもたらしたとのコンセンサスが出来上がりつつある。そうした考え方の下で、欧米諸国は、政府の介入度合いを高める方向に進んでいく可能性が高い。財政支出の拡大が、米国だけでなく、EU圏でも生じる可能性がある。事実、EUでは財政健全化目標を定めたstability pactの見直し論議が盛んに起こっている。こうした欧米の潮流の下で、日本だけが、徐々にせよ、「小さな政府」に動き出すとすれば、日本経済は、海外投資家にとって大きな興味の対象となるであろう。世界経済は、欧米の大きな政府志向と、日本の小さな政府志向とを天秤にかけることになるのである。個人的には、小さな政府による民間部門の活力増大が日本経済再生の条件と考えており、その意味では、日本の財政政策のトレンドが欧米に逆行することをポジティブに捉えたい。財政政策に関する論議が、市場にとって、当面の最大の焦点となるであろう。

以 上  
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next