2002年08月13日

白川 浩道
財政による経済活性化には期待できない

来年度以降の税制改革に関する議論が徐々に煮詰まりつつある。基本的な考え方は、「来年度から向こう3年間は、減税額が増税額を上回るネット減税期間」とし、「その後2年間は、ネット減税期間における減税総額を取り返す増税期間」とする、ということである。要するに、3年は減税、その後2年は増税で、通算の5年間をみれば税収は中立になる、わけである(税収中立の原則)。そして、ネット減税の規模は3兆円程度とみられる。景気が最も苦しそうな来年度に1.5兆円程度のネット減税を行い、その後、減税規模を5000億円ずつ削減していくイメージである。

ここで、最大の争点となるのは、減税の中身である。現状、減税の実施方法については、2つのアイデアがある。1つめは、塩川大臣や財務省が主張する、研究開発・IT関連投資に関する政策減税である。これは、企業の研究開発投資やIT関連投資に関する控除措置の拡充であるが、ポイントは、向こう3年間の時限措置となる可能性が高い、ということである。もう1つのアイデアは、経済財政諮問会議が主張する、法人税率引き下げである。これは、時限的な政策減税ではなく、恒久減税である。

このように、減税の中身については、「時限的な減税措置とするのか」、あるいは「恒久減税とするのか」、といった2つのアイデアがあるわけであるが、その効果、インプリケーションは大きく異なる。2つのアイデアではそれぞれ着眼点が異なるのである。第1の政策減税は、いわば、企業の研究開発投資やIT投資を短期集中的に刺激しようというものであり、景気対策の側面が強い。第2の恒久減税は、景気対策というよりも、所得分配政策の色彩が濃い。

なぜなら、恒久減税に踏み切った場合、財政赤字の拡大を認めない限り、減税先行期間が終了した4年目、5年目における増税額が拡大する可能性が高く、このことは、かなりの規模の増税を手当てしなくてはならないことを意味するからである。すなわち、3年間のネット減税3兆円を、4年目、5年目の2年間で取り戻すとすれば、その2年間の増税規模は3兆円で済む。しかし、恒久減税を実施した場合には、4年目、5年目の2年間で、最大7兆円(3兆円+2兆円+2兆円)の増税が必要となる筋合いにある。このことは、先行減税の柱に法人税率引き下げを据えた場合、2006年度、2007年度において、かなりの増収効果が見込める増税を実施せざるを得ないことを意味している。そしてそれは消費税増税であろう。

このように、経済財政諮問会議が主張する恒久減税案は、企業と個人の間の所得再分配を目指している面が強いと言える。法人税率を引き下げる一方、一定期間を置いて消費税率を引き上げる、というのが、その基本的な趣旨である。こうした税制改革による所得再分配が日本経済の活性化をもたらすかどうかは、日本企業の投資行動が税引き後利益に対してどの程度感応的であるかにかかっている。法人税率引き下げによって投資が活性化されれば、消費税増税によるデフレ的な影響を相殺することが可能かもしれない。しかし、法人税率の引き下げが投資活動に影響をもたらさない場合、税収の構造的な減少が生じ、その穴埋めのためにより大きな規模での増税が将来必要になるであろう。簡単に言えば、消費税率の引き上げ幅がより大幅になるということである。

個人から企業に所得移転をすることが日本経済再生の条件であるとの議論は、「日本企業は、投資意欲こそあるものの、税負担が重くて投資ができない」という前提条件に立っている。しかし、こうした前提条件はにわかには信じ難い。日本経済の最大の問題は、物価の趨勢的な下落であり、それによる実質金利の高止まりではないだろうか。企業は税負担の重さだけではなく、実質金利の高さによる「債務負担の重さ」にも喘いでいるのである。恒久企業減税を実施しても、企業投資が活発化する可能性はそう高くないであろう。

こう考えると、「企業に優しく、個人に冷たい」税制改革が国民から高い支持を得る可能性は低いのではないだろうか。そして、法人税率引き下げの景気拡大効果に疑問をもつ財務省や政府税調は、最終的には、法人税率引き下げに応じないであろう。結局、先行減税の中身は、時限的な投資減税となる可能性が高い。そして、その景気刺激効果も限定的であろう。なぜなら、いずれにせよ、初年度の段階で、4年後、5年後の増税措置が明らかになってしまうからである。企業がIT投資等を一時的に増やしても、4年後の増税を予想する個人等が財布の紐をきつくすれば、景気刺激効果はかなり限定的となろう。要するに、財政政策による経済活性化には期待できそうにない、ということである。

以 上
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