2002年09月27日

白川 浩道
日銀の愚策

日銀は、金融システム安定化措置と称して、銀行から直接、個別企業の株式を購入することを決定した。現状での評価は以下のとおりである。

  1. 本措置は、間接的な銀行支援である。すなわち、市場の需給や期待への影響等を通じた株価上昇によって、主要行の自己資本をサポートしようとするものである。公的資金再注入による銀行の実質国有化措置を嫌う財務省・金融庁と、日銀による株価対策を引き出したい一部政治家の思惑が合致して出てきた措置であると理解している。

  2. しかし、残念ながら、この措置による株価押し上げ効果は極めて限定的であろう。第1には日銀が時価で株式を購入するため、ある程度株価が上昇するまでは、実際に銀行が株式を日銀に売却できない。第2には、日銀は全ての銘柄を対象に株式を購入するわけではない。日銀の買取り基準はそれなりに厳格なものになる可能性が高く、実際に購入できる規模は1兆円にも満たない可能性がある。

  3. その一方で、今回の措置は、日本の経済政策運営に対する国際的な信頼を大きく損ねたものと考えられる。まず、第1に問題としなければならないのは、今回の措置に関する法的手続きである。すなわち、日銀法におけるどの条項で今回の措置を正当化するか、である。日銀と財務省は、日銀法第43条を拠りどころとする構えである。第43条とは、平たく言えば、「日銀は、財務大臣の許可があれば、通常業務以外の業務を行える」というものである。しかし、この条項は、そもそも戦争や天変地異等を想定しているものとみられ、いわば、非常事態での対応を考えたものである。一刻を争う緊急事態における日銀の柔軟な対応を可能にするための法律であり、日銀に銀行が保有する株式を買わせるためのものではない。法解釈の濫用と言わざるを得ない。

  4. 第2には、これが、日銀による「実質的な金融危機宣言」であることから、政府の政策スタンスとの整合性が問題になる。日銀は、法解釈を濫用してまで、非常時的な対応をしたことになるが、このことは、日銀が「日本の銀行システムは既に危機的状況にある」ことを示した、としか受け取りようがない。しかし、一方の政府は、「金融システムは依然問題がない」との姿勢にある。一国の中で、中央銀行と政府の金融システムに対する評価が180度異なるなどということはあり得ない。日本は経済政策の初歩の初歩もできていない国との烙印を押されることになったのである。

株価への効果が望めず、日本に対する国際的な信認が失墜したとすれば、帰結は、債券、株、円のトリプル安ではないか。こうしたリスクが見え始めている状況で、政府には、不良債権処理の促進や公的資金注入を求める声が強まっている。しかし、問題の本質は、政府には、「国民との間で危機感を共有し、きちんとした説明責任を果たしながら、政策を決定していく」意思がないことである。密室、国民不在、ごまかし、の下で政策を続けようとする限り、日本経済の未来は開けてこない。

以 上
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