2002年11月07日

白川 浩道
ついにマイナス金利か?

産業・金融構造改革は基本的に先送りのモードにある。竹中チームの「統制経済化計画」は、政治的圧力の下で、十分には進展しないであろう。他方、財政出動に対する政治からの要請が強まりつつあるが、[1]足元の7−9月期GDP成長率が2四半期連続の小幅のプラス成長となる可能性が高いこと(当社の暫定的な改訂見通しは前期比+0.3%)、[2]財務省は税収不足を強調する形で政治を大きく牽制する状況にあること、[3]米国政府から大型補正に対する要望が出ていないこと、から、補正規模は2−3兆円止まり、と読む。

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こうした中で、政策の焦点は再び金融政策に移っている。「金融緩和の一段の積極化により、リフレを図ることこそ、必要な政策」との議論が強まる可能性が高い。金融政策の次なるフレームワークは、「ベースマネー伸び率ターゲット」であると考えている。ポイントは以下のとおりだ。

10月のベースマネー(現金+日銀当座預金)の前年比は19.8%と、9月の21.4%からさらにスローダウンした。これは、日銀が「当座預金残高のターゲットを長く15兆円程度に据え置いてきた」結果である。極めて当たり前のことであるが、当座預金の絶対額をターゲットにし、これを硬直的に運営すれば、ベースマネーの伸び率は低下する。10月30日会合で当座預金のターゲットが「15兆円から20兆円程度」に引き上げられたため、今後、年末にかけて、当座預金残高は20兆円弱まで増加するものとみられる(当面は17、18兆円か)。この結果、ベースマネーの伸び率が急激に鈍化するリスクは低下したが、「当座預金20兆円キープ」でも、来年4月にはベースマネーの伸び率が10%を切ってしまう可能性がある。

インフレ期待を醸成できるまで、ベースマネーの「持続的な拡大が必要」であるとの考え方が依然として根強いとすれば、日銀は当座預金ターゲットを漸次引き上げるか、あるいは、「ベースマネーの伸び率を直接ターゲットにする」しかないであろう。仮に「前年比20%程度のベースマネー」をターゲットとした場合、銀行券や補助貨幣の伸び率が大きく変わらないとすれば、日銀は、来年一杯、当座預金残高を25−30兆円に維持しなくてはならない。

問題は、銀行の当座預金に対する需要を(持続的に)引き上げられるか、である。資金は既にジャブジャブであり、銀行もこれ以上流動性を欲しないのではないか、という議論である。しかし、銀行の日銀準備に対する需要を高める方策は残っている。1つは、日銀がマイナス金利でオペを実行することである。もう1つは、日銀が不稼働資産(期待利回りがマイナスの資産)を銀行から買い入れることである。これらのいずれかを実施すれば、ゼロ金利の日銀当座預金を銀行がさらに需要する可能性が十分にある。なお、不稼働資産の典型は、不良債権そのものであるが、現実的には、担保となっている不動産の証券化商品、不良企業の社債や株式などが挙げられる。

早い話、「ベースマネー伸び率ターゲットとマイナス金利」か、「ベースマネー伸び率ターゲットと不動産関連資産購入」、のいずれかの組み合わせが、金融政策の次なるフレームワークになる可能性が高い。個人的には、後者の組み合わせの方がインフレ期待醸成により強い効果を発揮するとみているが、財務省・日銀が、まず模索するのは、前者の組み合わせであるとみている。昨日公表された9月の金融政策決定会合の議事要旨によれば、財務省からの出席者は、ベースマネーの伸び率が鈍化していることに懸念を表明している。「当座預金残高を漸次増やすべき」といった塩川発言や、テイラー米財務次官に「高いベースマネーの伸び率を維持することが重要」と述べさせた黒田財務官など、財務省首脳は、一様に「流動性の持続的な拡大の必要性」を指摘している。財務省にとっては、「ベースマネー伸び率ターゲットとマイナス金利」が実現し、イールドカーブがさらにフラット化すれば、財政バランスの悪化圧力を緩和できる、という大きなメリットがある。税収の不足が徐々に明らかになり、今、来年度ともに、新発債発行額が34−35兆円になる可能性が高まっている状況下、国債PKOを後押しする金融政策は財務省にとってまさに願ったりであろう。

日銀は、いつ、ベースマネー伸び率ターゲットに移行し、マイナス金利政策を本格的に模索するであろうか。個人的には、ベースマネー伸び率ターゲットへの移行は早ければ来年3月には導入される可能性がある、とみている(ただ、年度末を控え、2月までに当座預金ターゲットの一段の引き上げが実施される可能性があるほか、実際の3月末の当座預金が25兆円程度に達する可能性もある)。そして、マイナス金利政策も、早ければ来年5−6月には導入される可能性があるとみている。今後の展開に注目したい。

以 上
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