2002年12月12日

白川 浩道
機能停止の財政政策?

株式市場は年の瀬を迎え、膠着状態にある。多くの投資家は、来年の世界経済にも大きな期待を抱いていない。米国経済については、来年早々にもブッシュ政権が新たな減税措置を打ち出す可能性があることから、二番底はなかろう、との期待感が広がっているが、だからと言って、米国経済の完全復活を予想する向きは少ない。3%成長といった、米国経済の実力からすれば「まだ病みあがり」の状況をみている投資家が多いのである。

そんな中で、投資家は、国内の経済政策運営に引き続き淡い期待を持っている。政府がなんとか日本再生の道筋をつけてくれないか、ということである。しかし、残念ながら、政府は、そうした市場の期待に応えるだけのものを用意できていない。税制改革は極めて中途半端であるし、産業再生の先行きも読めない。日銀がとにかく資金をジャブジャブ供給して、世界から怒られない程度の円安を演出する、くらいのアイデアしかないのである。なんとも心細い話である。

税制改革を評価しておこう。まず、来年度はネットで2兆円弱のネット減税が実施されることが固まった。減税については、法人税絡みが研究開発・投資減税を中心に1.3兆円程度、土地・不動産絡みが4000億円程度、相続税・贈与税減税が400億円程度、残りは証券取引絡み等で3000億円、となり、合計で2兆円である。他方、増税は、酒税・タバコ税の増税が数千億円程度である。このネット減税策に景気刺激を求めることはまず不可能であろう。まず第1に、企業は既に十分なキャッシュフローを持っており、投資資金に困っているわけではない。企業は投資する意欲がないのである。従って、研究開発・IT投資減税によって、実際に設備投資が刺激される可能性は低い。減税によるキャッシュフローの拡大は債務返済に回されるだけであろう。また、土地・不動産絡みの減税については、登録免許税の税率引き下げ(原則5%から2%へ)、不動産取得税の税率引き下げ(原則4%を3%に統一)が目玉であるとされるが、不動産取得時における一回限りの減税措置では、不動産市場の活性化には程遠いものとなろう。不動産市場の活性化を真に目指すのであれば、継続的な減税手当てが必要である。そのためには、住宅ローンに関する税額控除の大幅な拡大(現在は年間50万円の特別控除が最大)などを考慮すべきである。相続税、贈与税に関する減税については、贈与税の非課税枠の拡大(110万円から2500万円に)と最高税率の引き下げ(70%から50%)が盛り込まれる。非課税枠の大幅拡大を受けて実際の生前贈与が予想以上に進む可能性がないとはいえないが、予想されている減税規模(数百億円)からすれば、景気刺激効果はなさそうである。最後に、証券税制の緩和であるが、これは、株式譲渡益、配当、投信分配金の税率統一(20%に)と、時限的な税率引き下げ(07年までは10%)が柱となる。こうした証券税制の緩和も実施されないよりはましであろうが、これだけで個人投資家の株式保有比率の上昇や景気刺激効果は望めまい。

税制改革の問題点は、思い切った増税や歳出見直しができないために、減税もほとんど効果のないものしか導入できない、ということである。財政政策は今や機能停止状態にある。人間で言えば、植物人間状態にある。生きてはいるが、全く思考することができないという状態である。日本の財政悪化が深刻な状態にあることは明らかである。一刻も早く健全化する必要があるとの議論も理解できる。しかし、そうであるからと言って、思考停止を継続させてよいわけではない。経済活性化に向けて財政政策は大胆な所得再分配を断行する時に来ている。経済政策の中で唯一財政政策のみが所得の再分配を達成できるのである。これを有効に使わなくてはならない。民間経済を活性化する所得再分配とは、公的部門から民間部門への資源配分を促進すること、企業や個人がより多くの所得を得るよう努力するインセンティブを与えること、である。政策的には、地方への税源移譲による地方交付税の大幅削減、特殊法人への補助金の削減・廃止、外形標準課税の全面的導入、課税最低限所得の大幅な引き下げ、消費税率の引き上げ、年金給付金額の引き下げ、といった財政緊縮措置と、住宅投資促進税制の導入(所得控除の大幅な拡大による大規模な個人所得減税)、教育・子育て減税の拡大、社会保障負担の軽減、といった大規模の減税措置である。こういった所得再分配政策を実現できない限り、日本経済の活性化はなく、ジリ貧状態が継続するだろう。小さなネット減税と、中途半端な外形標準課税の導入や所得控除の削減、程度では、全く不十分である。

以 上
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