2003年01月10日

白川 浩道
日銀に全ての皺が寄る2003年

年初に当たって、景気動向、政策動向を概観しておこう。

景気については、昨年10−12月期から調整局面入りした個人消費の低迷が持続する見込みである。実質個人消費(GDPベース)は10−12月期に前期比2%程度の落ち込みとなったものとみられるが、1−3月期も調整は続くであろう(前期比0.5%程度)。そして、個人消費の回復は秋口頃まで望めないであろう。他方で、企業の設備投資については、製造業の循環的な更新投資が年前半に緩やかな拡大をみせるものとみられるが、力強さはない。設備投資の回復も2004年前半まで待たねばならないであろう。頼みの外需については、輸出の前年比増加率の鈍化が鮮明になるものと予想される。これまで輸出の大きな牽引役であった、米国とアジアの耐久財消費がさすがにスローダウンするとみられるためである。

こうした状況で、経済政策の基本は、引き続き、金融政策による量的緩和の追加である。財政政策運営の視点は、「現状の公共サービス水準をなんとか維持するための増税のあり方」であって、もはや、単純な景気刺激型の財政政策に対する期待を持つ段階ではなくなった。年末にかけて行われた新与党3党の合意にみられるように、政治サイドからの日銀に対する風当たりは、今後、予想をはるかに上回る勢いで強まる可能性がある。財務省が主導する政策は、ベースマネー伸び率ターゲットへの移行、イールドカーブのフラット化、円安誘導、の3点セットである。日銀は、3月までの3回の金融政策決定会合のうち、2回の会合において2000億円ずつの輪番オペ増額(合計4000億円)を決定せざるを得ないものと予想される。そして3月末にかけては、当座預金残高を25兆円規模まで拡大するとともに、事実上、前年比20%程度のベースマネーの伸び率にコミットさせられることになろう。ただ、当面の間は、明示的なインフレ・ターゲットの導入にまでは至らない可能性が高い。財務省は、債券相場を壊す可能性があるインフレ・ターゲットの導入には依然として慎重であり、竹中氏や、最近インフレ・ターゲットの議論を加速させている与党との温度差は縮まっていないからである。インフレ・ターゲット導入議論が本格化するには、今後半年はかかるであろう。ただ、4月以降の日銀の新体制の下で、年内にインフレ・ターゲットの議論が大きく進む可能性は皆無ではなく、04年度予算編成前の10−11月頃を目処にインフレ・ターゲットの正式導入が決定されるリスクはみておいた方が良いかもしれない。

金融システム、不良債権問題に関しては、基本的に「先送り」を予想するとともに、いわゆる2−3月危機は生じないとみている。まず、株価水準の一段の下落による金融システム不安の可能性は大きくない。株価の一段の下押しの可能性が低いとみられる理由は、(1)米国の追加的財政刺激策(10年間で6000億ドル以上)に対する市場の評価が徐々に高まることで、米国経済に対するコンフィデンスが急激に悪化するとはみられないこと、(2)次期日銀総裁の決定を含め、金融の一段の量的緩和に対する市場の期待感が強まるとみられること、(3)米国における財政出動、日本における追加的な金融緩和といった政策ミックスにより、市場では円相場の緩やかな下落が生じるとともに輸出企業の収益回復期待が生じるとみられること、(4)追加的な量的緩和期待の下で10年物金利の低位安定が期待されることから、株式の割安感が認識されるものとみられること、である。特に、米軍のイラク攻撃や北朝鮮問題に対する懸念から足元ではドル売り圧力が強いだけに、イラク問題の早期決着等によって、そうしたドル売り要因(リスク・プレミアム)が剥落すれば、為替相場は短期間のうちに円安化する可能性が十分にある(130円程度まで)。

他方、政府が自らトリガーを引く形で金融不安が生じる可能性も低い。最大のポイントは、現状の法的枠組みの下では、流動性危機のリスクを高めずして、銀行に公的資本注入を行うことはほぼ不可能、であるからである。政府が銀行への公的資本注入を実施し得るのは、「信用秩序の維持に重大な支障を来たす恐れがある場合」に限られている。これまでも繰り返し述べてきたように、政府が、公的資本注入を決定する時は、預金者に対して、銀行部門における危機的な資本不足を正面切って認めるときである。仮に、過去の金融行政責任といった問題を無視し得たとしても、そうした判断を下した場合の最大のリスクは、実際に預金流出が生じ、流動性危機が生じてしまうことである。政府は、なんとしても予防的な公的資本注入のメカニズムを再構築せざるを得ない。それができるまでは、金融危機宣言も、銀行への公的資本注入も容易にはできないであろう。そして、銀行の資本増強を思い切って行えない以上、政府は、不良債権処理を本格的に加速させることもできないであろう。

要するに、今年についても景気に大きな期待はできないが、銀行改革や企業再編が大きく進むこともないであろう。また、財政政策の政策転換によって大きな財政刺激策を予想できるわけでもない。金融システム対策、財政政策における無策の皺は全て金融政策に寄ることになるであろう。政策の議論に進歩は全くない。安易な日銀いじめが今年も継続する。そして日銀が如何に金融政策を緩和しようとも、日本経済の再生などみえてこないであろう。むしろ、肝に銘じなくてはならないのは、日銀が流動性の拡大にコミットすればするほど、過剰債務企業の整理・淘汰による供給過剰状態の是正が遅れ、デフレ・スパイラルから抜け出られなくなるだけのことである。そして、その結果として財政破綻リスクが高まり、円が売られるだけのことである。安易な日銀いじめが終息し、日本経済の再生がみえてくるような年にしたいものである。

以 上
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