2003年03月10日

白川 浩道
ECB利下げは良い兆候

 先週、ECBが市場介入金利を0.25%引き下げ、2.5%とした。年内に更に0.75%の利下げが行われ、目標金利水準が1.75%になるものと予想している。結論から言えば、ECB利下げは良い兆候である。なぜなら、世界的な金融緩和モードの強まりは、日本における財政出動の拡大=財政破綻確率の上昇=市場主導での経済システム改革圧力の高まり、といったサイクルをもたらすからである。現状維持を決め込む政府・日銀に対する「目覚まし」となる可能性が期待されるのである。

 世界的な金融緩和モードが強まる様相にある。起点は、米ドル相場下落と、世界的な金融システム脆弱化、の2点に集約される。米国経済に対する不信感(地政学的なリスクも背景)は、米ドル資産からの趨勢的な資本流出が継続するのではないかとの懸念をもたらしており、これが米ドル相場の軟化を招いてきている。欧州としては、ユーロ相場の持続的な上昇を予防することが急務になってきたのである。また、世界的なディス・インフレの進行は、世界中の金融機関の収益力を低下させており、欧州もこの例外ではない。

 今回のECBの緩和措置については、ユーロ相場の安定化と、金融システムにおける流動性危機の回避が、その主たる目的となっていると評価している。これは、日本がまさに実践してきたことである。米国におけるFEDの緩和も、米ドルの緩やかな調整と、流動性の拡大による市場安定化・金融システム安定化を狙ったものであると考えてよい。逆に言えば、中央銀行には、世界的にどこをみても、金融緩和で景気回復を演出できると考えている先はないのではないか。なぜなら、世界的な完成品価格の下落傾向が反転する可能性をなかなか見込めない中で、金融緩和によってインフレ期待を高めることがかなり困難であることがわかってきたからである。ディス・インフレ期待に大きな変化がない以上、「金融緩和は実体経済の回復には殆ど無力である」との見方が中央銀行の間でシェアされつつある、と考えても差し支えないであろう。

 その意味で、低迷する世界経済が欲しているのは、むしろ、財政刺激策の導入である可能性が高い。しかし、各国政府は、財政の追加出動に後ろ向きである。これは日本に限ったことではない。米国では、先の減税プランに対する否定的な見方が根強い。また、欧州でも、マストリヒト条約に基づいた財政規律を見直そうという動きが加速する気配はない。先進国の1つのコンセンサスとして、「財政の肥大化は民間部門の活力を低下させ、中長期的に生産性を抑制する」という見方が根強いのである。

 世界経済が、地政学的なリスクにも呑み込まれながら、悪化を辿った場合、ECBやFEDは金融緩和を可能な限り追加してくる可能性がある。世界的な「政策金利ゼロ金利時代」が到来するかもしれない。そうした状況で、日本も量的緩和の追加を目指すのであろうか。答えは、恐らくノーであろう。なぜなら、日本の金利水準と金融機関のリスク・テーク能力(為替リスク・テーク能力)は、ともに、既に大きく低下してしまったからである。ECBやFEDの追加緩和が継続した場合、日本が対抗して(正常な範囲での)量的緩和を追加しても、円高は避けられない可能性が高い。

 そうであるとすれば、日本は、世界的な金融緩和の仲間に加わるのではなく、財政出動へと向かわざるを得なくなる可能性が高い。米国や欧州にしても、日本の経常黒字(国内貯蓄超過)の大きさをみれば、財政出動を要請してくる可能性がそれなりにあるのではないか。欧米の追加金融緩和=日本における財政出動、といった構図が成立する可能性を徐々にみておいた方が良い。

 政府の事なかれ主義・現状維持政策は、世界経済・金融システムの脆弱性の高まりによって、修正を余儀なくされる可能性がある。そして、持続的な経済刺激効果のない財政出動を大規模なもので実施すれば、日本の財政破綻が、より近い将来に発生する確率が高まる。市場主導の経済システム改革の可能性が高まる、という意味では望ましいことである。世界経済が疲弊すれば、日本に対する構造改革圧力が強まることは自明である。逆に世界経済がそれなりの成長を維持すれば、日本は現状維持を続け、当面、何も変わらないであろう。ECBの利下げは、改革論者にとっては良い兆候であると言える。

以 上
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