2003年04月14日

白川 浩道
高齢者の消費が景気を下支え?

所得環境の趨勢的な悪化が継続する下で、個人消費は、昨年秋口以降、減速しつつある。しかしながら、その程度は、想定したよりも幾分マイルドである。背景には、個人消費の個人所得に対する感応度が低下しているという事実がある。12ヵ月移動平均のベースでみた平均消費性向(2人以上の勤労者世帯)は、1998年冬にボトム・アウトしているように窺われる。特に、昨年の前半に短期的な低下を経験した後、昨年後半には大幅に上昇した。足元では、緩やかな低下が生じているが、移動平均のベースでは、依然として、緩やかな上昇トレンドの上に乗っている。この間、消費者コンフィデンスは循環的な動きを示しており、趨勢的な改善はみられない。平均消費性向は消費者コンフィデンスの動きと乖離しながら緩やかな上昇を続けているのである。

消費性向の趨勢的な上昇が生じていることについては、いくつかの仮説を立てることが可能である。まず、第1には、消費者の消費者信用に対する依存度が上昇している可能性である。また、第2の仮説は、個人の住宅ローン借入れの返済負担が趨勢的に低下してきている可能性である。しかし、マクロ・データからみる限り、これらのいずれの仮説も妥当しない。日本の消費者は、引き続き、重い住宅ローン返済負担を背負っているほか、借入れによって消費を拡大する姿勢にあるわけでもない。

所得と消費の関係が変化しつつあるという現象は何によってもたらされているのであろうか。1つの有力な可能性は、一部の消費者が、何らかの理由(例えば、退職金の支払いを見込める、あるいは、負債の返済に目処が立つなど)によって、フローの所得を無視した消費行動を行っており、それが、マクロでみた平均消費性向を上昇させている、というものである。

実際、昨年は、勤労者世帯について、世帯主年齢が50歳以上の高齢者層で消費性向が大きく高まっており、これが勤労者世帯全体の消費性向を押し上げた。そして、これら高齢者層の消費性向が上昇したことで、昨年の勤労者世帯の個人消費は1.3%ポイント押し上げられたものと推計される。すなわち、昨年の勤労者世帯の消費支出は、高齢者世帯における平均消費性向が2001年対比で仮に横ばいに止まっていた場合には、全体で1%ポイント以上も押し下げられ、前年比で2%台半ば以上の落ち込みとなっていたことになる。世帯主年齢が50歳を超える世帯の消費は、勤労者世帯消費全体の46%を占めており、それら世帯における消費性向の上昇はマグニチュードとしてもかなり大きな影響を及ぼすことになるのである。

最大の関心は、昨年に生じた、高齢者層における大幅な消費性向の上昇が、一時的なものなのか、あるいは構造的なものなのか、という点である。この点に関しては、残念ながら、明確な回答を持ち合わせてはいない。ゼロ金利の長期継続の下で金融資産運用インセンティブが低下していることの結果ではないか、漸進主義的な企業構造改革の下で雇用市場におけるショックが回避されてきた結果、高齢者層にモラルハザードが蔓延した結果ではないか、など、いくつかの仮説を考え得るが、検証は容易ではない。その意味では、高齢者の消費が、今後も長期に亘って堅調に推移する可能性について自信を持てる段階にはない。ただ、高齢者の消費が相対的に元気であり、国内景気の下支え要因となっていることは、ほぼ疑いの余地のないことである。暗い日本経済の中にあって、自動車販売、携帯電話販売など、堅調に推移する指標がみられているが、これも高齢者による寄与があるためと考えられる。高齢者消費が日本経済のテーマになる可能性に留意しておきたい。

以 上
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