2003年05月15日

白川 浩道
日銀は国債市場のガス抜きへ

 政府の証券市場活性化策の骨子が固まった。厚生年金代行返上の開始時期の前倒し、銀行等保有株式取得機構が発行する債券の郵貯・簡保による購入等が柱である。検討項目として、日銀による株式買取り枠の拡大が残ったが、日銀に対する圧力は弱い。日銀によるETFや外債購入といった措置は、活性化策のリストから外れた格好になった。こうした政府の「配慮」は、日銀の運用資産分散が、日銀のアイデアとして出てくる可能性を示唆している。政府が株価対策の目玉として政治的な圧力をかければかけるほど、日銀のETF購入や外債購入はひっこんでしまう。現状でみる限り、そうした状態は回避される方向にある。来週の決定会合後に何らかの形で、資産担保証券に続くリスク資産購入の方向性(具体的にはETF購入の方向性)が示される可能性は引き続き5割はある、とみておきたい。

 個人的には、日銀によるリスク資産購入インセンティブはかなり強いものと引き続きみている。日銀が供給するベースマネーの裏付け資産は、高い信用力を有し、市場流動性も十分なものである必要がある。円という通貨の信認を確保するためである。日銀が、そうした通貨供給の原則を維持したうえで、リスク資産の購入に踏み切るということは、日銀が、中長期的にみた国債の信用力に疑問を持ち始めていることを意味する。日銀は通貨の信認を維持するために、国債との距離を置き始めていると言える。

 日銀は、公的部門に対するプレッシャーを高めるスタンスにある。現在の日銀には、「中央銀行が安易な財政赤字ファイナンスを継続すれば、財政規律が損なわれるばかりではなく、将来のどこかの時点で、自分達のバランスシートの膨張が円の信認を崩し、その結果、長期金利と円相場のスパイラル的な下落が生じる」という警戒感がある。そして、長期金利の反転上昇が生じれば、民間金融機関のバランスシートに巨額の国債が塩漬けになっている以上、「一時的にせよ、金融システムの混乱は避けられない」という危機感もある。

 福井日銀は、国債市場に充満し、いつ爆発するかわからない「ガス」を、リスク資産の購入開始といった形で抜こうとしている。「手遅れにならないうちに、日銀の運用資産の多用化を図り、将来の経済混乱を回避する」腹積もりであると考えられる。リスク資産の購入は、まさに「ガス抜き」措置である。

 日銀のリスク資産購入にいくつかのハードルが存在することは周知の事実である。まずは、法律面での制約である。株式やETF、あるいはREITといった金融資産の買取りは、日銀の通常業務である流動性供給として実施することはできない。非通常業務、あるいは非常時対応としてのみ実施が可能である。そして、そうした非常時対応は、政府からの要請、ないしは政府の特別な許可の下で実行されるものであり、日銀の独断で行うことは困難である。日銀は、リスク資産購入の大義名分を政府から与えてもらう必要がある。福井日銀の苦悩は、現行の日銀法が日銀による購入資産選択の独立性を保証していないという点である。日銀が、流動性供給目的で株式や不動産に絡む証券を購入しようとすれば、日銀法の改正が必要になるが、これは簡単には進まない。

第2の問題点は、リスク資産購入が経済構造改革に逆行する可能性である。例えば、日銀がETFを購入することになれば、負け組み企業の株価が上昇する公算が大きい。日銀にとって悩ましいのは、ETF等の購入によって市場機能が損なわれる嫌味があるということである。

それでも、なお、日銀はリスク資産の購入を諦めないだろう。企業構造改革は、国債市場に蔓延するモラルハザード、すなわち長期金利の低位安定、によっても大きく遅延するリスクがあるからである。日銀にとっての判断基準は、「国債を買い続けることのコストと、リスク資産を購入することのコストのいずれが大きいのか」というものになる。福井日銀は両者のコスト比較を行い、従来とは異なった答えを出す(リスク資産購入を是とする)可能性が高い。日銀によるリスク資産購入の決断時期は迫っている。

以 上
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