2000年08月07日

白川 浩道
生産性の向上はもたらされるか

 産業別の生産性を、生産(鉱工業生産指数、各産業活動指数を利用)と労働投入量 (常用雇用指数*労働時間数を利用)の増加率の差と定義した上で、90年代以降の動きをみると、製造業、 運輸・通信業とその他産業のコントラストが明らかになる。すなわち、生産性の伸びを95年以前と96年以降(00年5月まで)で比較すると、 製造業では2%程度にまで回復しているほか、非製造業の中でも運輸・通信では5%強にまで上昇しているが、その他の非製造業をみると、 建設では大幅な生産性低下に歯止めがかかっていないほか、卸・小売・飲食、サービスでも、小幅のマイナス基調となっている。

 こうした観察事実は、運輸・通信(とりわけ通信関連)、製造業では、相対的に雇用創出力、 あるいは賃金上昇余力が強い一方、建設業、卸・小売・飲食業、サービス業では、相対的にそれらが弱い可能性を示している。実際、 最近の雇用関連データをみると、こうした中期的な生産性の動きが示唆するところと概ね整合的な産業別の動向がみられており、 緩やかにではあるが、生産性の格差に基づいた産業構造調整が進展しているとも言える。

 しかしながら、やや長い目では産業構造調整に楽観的にはなれない。 国際競争力維持を命題とする製造業に中期的な雇用創出が望めない中で、運輸・通信業(非農林就業人口の7%弱) に雇用の受け皿の役割を負わせるには無理があると考えられるからである。基本的には、卸・小売・飲食、 サービスといった非農林就業人口の5割以上を抱える産業が、高付加価値化をベースに据えながら需要を刺激していくしかないと考えられる。 そして、これら非製造業における高付加価値化とは、やはりITインフラの徹底的な装備 (消費者ニーズの把握・管理や販路・仕入れ・決済の効率化等を目的)によってもたらされる面が大きいと考えられる。

 さて、ITインフラの装備を行う(資本装備率を一段高いところに持っていく)には、 投資の初期段階においてキャッシュフローの大きな拡大が必要とみられ、そのためには、労働コストの削減が重要な要素となろう。 労働コスト削減(賃金削減)→利益拡大→労働代替的な設備投資=ITインフラの増大→生産性拡大→賃金上昇、 といった循環が働けば、経済は中期的に2%程度の成長パスに復帰する可能性がある。

 日本経済に上記のような好循環の芽が出てきているか、現段階では微妙なところである。 なぜなら、00年度は人件費削減ペース鈍化、経常利益増益率鈍化の年となる可能性が高いからである。 非製造業はリストラの手を緩めることなく、思い切ったバランスシート調整、人件費削減を断行すべきである。 消費を中心に景気の一時的な後退は避けられまいが、こうした調整は日本経済の再生にとって必要不可欠なものであるとの認識が必要である。

以 上  
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