2003年05月26日

白川 浩道
経済政策は再び問題先送りへ

 りそな銀行に対する公的資金注入が決定された。政府の政策運営に対するスタンスは再び問題の先送りである。現状での評価は以下のとおり。

  1.  今回の措置は、政府が「予防的な公的資金注入の枠組み」を実質的に構築したことを意味する。政府は、会計制度を若干いじることで、明確な金融危機宣言を行わずに銀行への公的資金注入が行えるメカニズムを作ってしまったのである(今回の措置により、金融審議会で議論されている「新たな公的資金注入メカニズム」の議論は骨抜きになるであろう)。政府がこうしたメカニズムを実質的に構築した以上、今後、金融危機宣言のないままに、かつ経営責任や株主責任が強く問われない形で、大手銀行に対する公的資金注入が五月雨的に実行される可能性が出てきた。この3月期決算はともかく、9月期、あるいは来年3月期決算を契機に、追加的な公的資金注入の議論が高まるであろう。

  2.  今回の予防的な公的資金注入の目的は、短期的な経済安定達成に他ならない。りそな銀行における不良債権のオフバラ化が、今後、どの程度進展するのか注意深く見守らなくてならないが、現状の政府のスタンスは、不良債権の切り離しを促進することではなく、貸出の維持に傾いている可能性が高い。また、明確な危機宣言を行わない状態での公的資金注入であるため、むしろ、預金者の銀行システムに対する信頼感は増す可能性がある。借り手である企業と預金者の間では、モラルハザードが一段と蔓延する可能性が高い。きちんとルールを作るのではなく、事後承諾的に、あるいは、なし崩し的に、予防的公的資金注入を決定したことの意味は大きい。政府の発想は、大手行に対して一斉公的資本注入を実施した99年3月当時から変わっていないのであり、これは大きな問題である。

  3.  短期的な経済安定が達成される可能性が高まったことから、短期的な経済成長率にはアップサイドの力が働く。他方で、中長期的な経済成長率にはダウンサイドの力が働くことになろう。日本経済では、この数年間、デフレ圧力が高まる下で、供給サイドが徐々に改善してきた。慢性的な銀行の資本不足が、不採算企業に対する圧力を強めてきたからである。具体的には、労働生産性が向上し、市場規律も、緩やかではあるが、回復しかけていたのである。今後、大手銀行に対する予防的な公的資本注入が進めば、こうした日本経済における前向きな動きが停滞することになるだろう。

  4.  今回の予防的公的資金注入の決定により、政府の金融危機宣言は完全に封じ込められた。銀行に対する安易な公的資金注入であり、先送り政策の極みではないだろうか。金融危機宣言が封印されたこと、さらには、安易な公的資金注入の連続によって、銀行部門の株価下落に対する抵抗力が高まること、を考えれば、今回の措置は、「政府・日銀による思い切ったリフレ政策(景気対策)の確率」を低下させたと言わざるを得ない。日銀が非伝統的な政策を採用する可能性も低下した。日銀が9月末までにETF購入を開始する可能性は大きく後退した。また、財政政策の大幅な転換も生じにくくなった、とみている。金融危機もなく、大型企業倒産もなく、さりとて景気対策もない、といった中途半端な経済環境が継続するであろう。

以 上
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