2003年06月13日

白川 浩道
まだまだ出てくる日銀の政策

日銀による資産担保証券の買い入れスキーム決定を受け、日銀の政策運営に関する中期見通しをアップデイトする。なお、新たな中期見通しの背景として、資産担保証券の買い入れスキームの評価、および、日銀の政策の方向性に関する見方の再確認を行う。

中期見通しのポイント

  1. 量的緩和の拡大:
    6月下旬の米FOMCの追加緩和(0.25%利下げ)を受けて、当座預金ターゲットをさらに拡大(30−35兆円へ)。7月会合(7月14−15日)が有力。

  2. 輪番オペ増額追加:
    政府による補正予算の決定をにらんで、月額2000億円の輪番オペ増額を決定。9月会合(9月11−12日)が有力。

  3. 銀行保有株式買取りスキームの条件緩和:
    買取り株式の格付け基準の緩和(BB格へ)、「Tier1超」基準の緩和、等。9月の金融政策決定会合日に開催される政策委員会が有力。

  4. 日銀法改正:
    日銀法第33条の改正によって、金融調節目的での売買対象資産を、「手形、債券」から「有価証券」へ。この結果、日銀は、政府による金融危機宣言等の大義名分なくして、購入対象資産のメニューを拡大。秋の国会に日銀法改正案が提出され、年明けに成立の運びとなるシナリオが有力。

  5. ETF、REIT購入:
    改正日銀法の下で、まずはETF、続いてREITの購入へ(ETFは来年2−3月会合が有力、REITは来年中)。

  6. 外債購入:
    当面は、非不胎化為替市場介入を利用できる状況で、敢えて、外債購入に踏み込む理由に乏しい。ただ、日銀として運用資産分散の観点から外債を保有するインセンティブはある。月額3000−4000億円程度の外債購入実施へ(来年前半が有力)。

  7. 資産担保証券買い入れスキームの条件緩和:
    裏付け資産に関する条件(貸出債権である場合、「正常先債権に限る」)を緩和することに。今回の措置が貸出債権流動化市場の拡大に寄与しないことの責任を取らされる格好に(来年前半が有力)。

  8. 物価目標導入:
    購入対象資産のメニュー拡大を目的とした日銀法改正を受け、物価目標導入論が本格化。米国FEDにおける物価目標導入論の高まりもカタリストに。中間段階としての物価参照値(参照レンジ)が導入されるかどうかは別として、CPIコアで前年比1〜3%の物価目標(達成期限は明記せず)を設定させられる可能性(来年秋が有力、確率50%)。

 資産担保証券買い入れスキームの評価

  1. 構造改革に未練を残した日銀:
    裏付け資産が貸付債権の場合には、それが「正常先債権」であることに限定された。日銀は、現段階では、不良債権の流動化商品にまで手を染めることを躊躇した。企業構造改革に未練を残したと言える。

  2. 限定的な資本市場拡大効果:
    裏付け資産を「正常先債権」に限定したことから、銀行がこのスキームを活用する可能性は低く、貸出債権流動化市場の拡大も望めない。日本経済全体の健全性が大きく低下している状況下、資本市場の拡大は不良債権関連商品の拡大を必然的に必要とする。それを当面は排除した。本スキームによって、銀行のバランスシート健全化、資本市場の拡大ともに展望されない。

  3. 政府の政策スタンスと非整合的:
    政府のスタンスは「改革先送り、モラルハザード容認」である。大手銀行、政府系金融機関は、今後も、ゾンビ企業への債権放棄を継続させるであろう。公的資金注入は、基本的には債権放棄のために実行するものである。そうした中で、日銀が一人、構造改革に未練を残す理由はない。

  4. 更なるリスク・テークを望む政府:
    市場育成効果、銀行バランスシート健全化効果がともに限定的で、かつ、政府の政策スタンスと整合的でない、となれば、日銀の時間稼ぎには限界がある。政府や、政治サイドからは、日銀に更なるリスク・テークを迫る声が短期間のうちに強まるものと予想される。

  5. 信用リスク・テークの用意を示した日銀:
    今回の措置で注目しなければならないことは、資産担保債券とシンセティック債の最低格付けをダブルBまで落としたことである。技術的な議論はさておき、日銀が要求する格付けが、さらに1ノッチ下がったことの意義は大きい。かつて日銀が受け入れる資産はシングルA以上であったが、株式買取りでトリプルBに、そして資産担保証券でダブルBになった。依然として、買い入れ資産規模は小さいが、日銀に信用リスク・テークの用意があることは十分に証明された。日銀には、政治的圧力を受けて立つ準備がある。

政策の方向性:購入資産メニュー拡大の3つの背景

  1. 銀行のバランスシート健全化を志向:
    日銀は、これまで、信用乗数の回復が金融政策の有効性を高める条件であると指摘してきた。そして、銀行のバランスシート健全化は信用乗数回復の必要条件と考えられる。日銀は、大手銀行に対する公的資金注入を横目でにらみながら、銀行のバランスシートから不稼動資産を切り離す措置に積極的に関与するであろう。今回の資産担保証券買い入れによって、政策の方向性が明確になったことは1つの収穫である。

  2. 信用リスク・プレミアム縮小を企図:
    日銀がこれまで実施してきた、国債買い切りオペを中心にした量的金融緩和の結果、イールドカーブのフラット化が大きく進展し、長期金利の絶対水準もすでに限界的な水準まで低下した。このため、金利低下を通じた資産価格押し上げ効果が限界に来ている。日銀は、市場における信用リスク・プレミアムをより直接的に縮小させることによって、資産価格サポートを行う必要性に迫られている。国債市場介入を通じた「しみ出し効果」ではなく、民間信用市場への直接的な介入を企図せざるを得ないのである。

  3. 日銀自身の資産規模拡大の抑制を志向:
    日銀は、「自らのバランスシートの拡大が経済不安定化をもたらすリスク」を懸念している。日銀が供給する通貨量が経済規模に比して過大になると、インフレ期待が通貨下落期待をもたらし、さらにはそれが資本流出を招いて国内金融・経済システムを動揺させるリスクがある。特に、金融システムが脆弱で、かつ、経済構造改革の遅れから期待成長率が低い経済では、そうしたメカニズムが働きやすい。そして、そうした日本売りのプロセスを止める手立ては通貨量の縮小しかない。厄介な問題は、経済を安定化させるのに適切な規模の通貨量が事前にはわからないことである。逆に言えば、日銀は、為替相場の下落と金利のスパイラル的な上昇が生じたときにはじめて、通貨供給量が過大であったことに気づく。したがって、日銀とすれば、バランスシートの持続的な拡大は容認し得ない。マネタリーベースの拡大を目指す政策から、リスク・テーク量の拡大を目指す政策にシフトするのである。そして、後者の政策によって、国内資産価格が安定するとともに、金融システムの健全性が高まれば、悪いインフレ期待を背景にした資本流出と経済不安定化のリスクは縮小する。信用リスク・テークによってバランスシートの拡大を抑制する政策は、日銀にとって魅力的なものなのである。
以 上
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