2003年07月14日

白川 浩道
追加金融緩和が必要

長期金利(10年物金利)は、ほんの数週間のうちに、最低水準の0.4%台から1.4%まで上昇し、再び1.0%前後に戻るという、動きの激しい展開となっている。ここで、長期金利の先行きを占う上では4つのチェックポイントがある。

まず、第1には、国内の物価動向である。趨勢的なマクロの物価動向を読む上では、GDPギャップの動向が重要である。そのGDPギャップは昨年の景気回復の下で4%強から3%弱に縮小しており、その効果が今後1年程度にわたって、物価に反映されてくると予想される。GDPデフレータのマイナス幅は1−3月期の3%強から、年内には2%を切るところまで回復すると予想される。長期実質金利が長期トレンド(97年以降でみて2.9%)の周りから乖離しないとすれば、10年債利回りの適正水準は0.9%〜1.4%程度ではないかと考えられる。

第2には、キャッシュフロー・設備投資循環である。これは、早い話、企業の資金余剰がどのような動きをするか、ということである。日銀の資金循環統計等を見る限り、ここ数年、企業の資金余剰幅拡大(債務のリストラ)が財政赤字のファイナンスを助けてきた。従って、企業が設備投資に前向きになり、債務のリストラを後退させれば、金利には上昇圧力がかかる。企業行動が構造的に変化することはないと考えられるが、循環的な設備投資回復局面が視野に入った以上、債券市場需給のある程度の悪化は避けられない。上記の点と合わせれば、長期金利が継続的に1.0%を下回ることは、当面、困難ではないか。

第3には、米国の債券市場である。この点については、米ドル下落による輸入物価上昇と、国内GDPギャップの縮小といった、2つの物価押し上げ要因が存在しており、米国におけるディスインフレ圧力は循環的に後退する可能性が高い。FEDが大幅な長期金利上昇を容認する可能性は低いが、ディスインフレ期待が戻ってくる可能性も低く、米国長期金利は堅調に推移するものと読むのが妥当であろう。これも、日本の長期金利の再低下を困難にする。

最後に、当局(日銀)による国債需給対策が重要である。シナリオは2つである。1つ目は市場不介入である。長期金利の上昇を「景気回復のシグナル、あるいは正常化の過程」と受け止め、当面、様子見を決め込むことである。株価が10,000円を挟む展開を続ければ、10年債利回りでみて1.3%程度までの水準は十分に容認されてしまうだろう。結果的に、金利水準は1.5%程度まで簡単に上昇するものとみられる。2つ目のシナリオは早期の市場介入である。「景気のファンダメンタルズからすれば、長期金利の上昇は好ましくない」として、日銀が、早い段階で流動性の追加的拡大(当預引上げと輪番増額)に踏み切るシナリオである。この場合には、長期金利が再び安定的に1.0%を切ることになるであろう。

我々の懸念は、日銀が、循環的な景気回復期待に胡坐をかいて長期金利の上昇を容認する可能性があることである。現在の日銀のスタンスは、「長期金利の上昇は景気回復期待を反映したものであり、株価の上昇と整合的」というものである。しかし、経済の持続的な成長には、実質金利の大幅な低下が不可欠である。そしてそのためには、一時的な景気回復期待を背景にした長期金利の上昇を安易に容認すべきではない。日銀には今まさに量的緩和を大規模に追加し、長期金利の低下を無理やりにでも演出すべきである。それによって、真の意味での過剰流動性を維持することが、景気回復の持続性をもたらす条件となる。

6月のマネタリー・ベースは前年比20.3%まで回復した。当座預金ターゲットを4、5月と2回引き上げた効果である。しかし、この水準ではまだまだ不十分である。当座預金ターゲットを40兆円レベルまで早急に引上げ、マネタリー・ベース前年比を30%近くまで引き上げる必要がある。日米合算のマネタリー・ベース前年比は16%近傍でふらついており、依然として力不足である。流動性の追加的な拡大によって、長期金利水準を再び0.5%程度まで引き下げ、より息の長い経済成長に対する期待感を強めることが必要であろう。

以 上
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